君に捧ぐ純情(短編)

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いつも思っていた

お前の目に
オレはどう映っているのか

お前は「可愛い」と言うけれど、それで満足していていいのだろうか?

恋人がいるなら一度は思う

好きな奴には
ずっと好きでいて欲しい







野分はオレを可愛いと言う

不意に思ったのだが、そういえば今までカッコイイと言われた事がない気がする。


研究室にて資料の本に手を伸ばした所で思い至り、中途半端な体勢で止まって考えた。

出会ってから7年以上

確かに日々お互いに忙しくはあるが、以前大きなすれ違いをしてから特に問題はない。

別に恋人としての危機とか、そういう事がある訳ではないけど…何となく思う。


(それって、男としてどうなんだろう?)


以前の大きなすれ違いを通して心に決めた事が幾つかある。

お互いに言葉が足りない

それが大きな原因だったから、これからはどんなに忙しくてもなるべく話をしようと決めた。

自分が口下手なのは自身も相手も知っているが、それもまたお互い様だ。

なので少しの言葉でも大きなコミュニケーションになる。


「上條?どうした?」


すぐ隣の机に座っていた教授が、変な体勢で止まったままのオレを不審に思って声を掛けてきた。

オレはとりあえず教授の方を見て、曖昧な表情を浮かべた。


(こんな感情…人に話しても仕方ないよな。)


明らかに私事だし、また教授の貴重な時間を割いてまでする相談ではない。

だけど勘のいい教授の事だ、きっと話すまで問い詰めてくるに違いない。

そう思い、気になる事だけ訊ねることにした。


「…教授、ちょっと聞いてもいいですか?」


「おう、何だ?」


珍しくオレが話す気になったのを見て気分をよくしたのか、教授はいつもにも増して軽いノリで返事をした。

パサリと音を立てて教授の手から離れた書類を何となく見つめながら、出来るだけ言葉を選んで訊ねる。


「オレのイメージって、どんなんですかね?」


「…は?イメージ?」


そんな的外れな質問に案の定教授は驚いた表情を寄越して、漸く手に持った本を引っ張り出したオレを見つめた。

少し遠まわしすぎたかと思いつつ、だけどこれ以上詳しく話せばまた何か詮索されそうだし…

そう思って別に期待してなかった教授の回答に、不覚にも感情を揺す振られる。


「そりゃお前…“怖い”だろうよ。何てったって鬼の上條なんて言われてるんだからさ。」


その言葉に動きを止めて考える。


(思えば…カッコイイとは無縁だよな。)


判っていたことだが何となくムッとして、今後の自分の有り方に思考を巡らす。


野分はいつもオレの事を可愛いと言うけれど、それでいいんだろうか?

それではあまりにも
“愛される”ばかりで、全然想いを野分に還元出来ていない気がする。






たまにはカッコイイと思わせて、オレが“愛する”事をしなければ…

何故か突然そう思った。


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