君に捧ぐ純情(短編)

□SIGNAL
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『お前にも本気で好きな奴が出来たら、きっとわかる。』





幼なじみが言った言葉が、まだ耳に残って離れない。

そいつはその言葉を最後に、この世界を出て行った。

オレたちは海の底に生きる種族、通称『人魚』

人間の世界では人魚は女というイメージが強いが、実は男も存在する。

今は人数も減ってしまい、実際には男の方が多いくらいだ。


人間界と交流があったのは凄く昔の事で、今は遮断された世界にお互い共存している。

『人魚姫』の話は交流があった頃の話で、この事件を最後に交流は途絶えたと聞く。


もう何千年も交流が途絶えて、人間には伝説の存在となったオレたち。


人間に見られてはいけない


しょせんは別の種族。

分かり合えないまま、人間の貪欲さに祖先は酷い仕打ちを受けたと伝わっている。

そんな古い話が残っていて、人間の存在を知らないオレさえ近づかない方がいいと思っていた。


“人間との恋が実るはずなどない”


そんな理念の元育って来たオレたちだったが、とうとう人間と恋に落ちた奴が出た。


それがオレの幼なじみ


必死に止めるオレの言葉も聞かず、あいつは海を出て行った。

噂によれば、幼なじみは人間になったと聞く。

海の奥深くにある迷いの森に住む魔女に、対価を払えば望みが叶うらしいけど…


“対価”


それはその人物にとって大切なモノでなければ意味がない。

それを差し出すのも勇気がいるのに、幼なじみは人間の為に家族も仲間も…この世界そのものを捨てたのだ

人魚は不老不死

だけど人間の命は短い

人間になれば命などあっという間に尽きてしまう

だけどそれでもアイツの目に迷いはなかった。

意味もなく長く生きる人生ではなく、大切な人の傍で意味のある人生を過ごしたい

そんな言葉が心に響いたのは、オレもこの長い人生に終わりを見出せないからだ



『お前にも本気で好きな奴が出来たら、きっとわかる。』




オレもいつか
そこまで愛せる奴が出来るのだろうか?

それが人間なのかは判らないけど

何もかも捨てて
ただ一人を愛せたなら

この命が尽きる時
意味のある終わりが見えるだろうか?





運命なんて信じてなかった

だけどオレの運命は
既に廻り始めていた…


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