君に捧ぐ純情(短編)
□ハピネス
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人類には重大な問題でも
大切な人が喜ぶなら
それだけで
これで正しいのだと思えてしまうから
久しぶりの休日。
テレビを付ければ、どのチャンネルにも同じ光景が映っている。
地球が誕生して何億年か経った現代、相変わらず人類は資源の無駄遣いを止めない。
年々深刻化していく環境問題は、今や国規模の取り組み課題になっている。
「うわ〜すげー雪だな。最近積もる事なんか珍しいのに。」
隣に座っているヒロさんがテレビを見て呟いた。
視線の先のテレビには一面銀世界の雪。
映されている公園で子供達が雪だるまを作ったり、元気に雪合戦している映像だった。
「そうですね。環境問題からくる異常気象のせいでしょうか?」
そう言ってテレビから視線を移して隣を見れば、ヒロさんは黙り込んで返事をくれなかった。
不思議に思ってテレビに視線を戻せば、画面いっぱいに雪で作られたパンダだるまが映っていた。
ヒロさんはクッションに顔の半分を埋めて、一生懸命画面を見つめている。
目がキラキラしているのは言うまでもない。
(パンダ、本当に好きなんだなぁ…。)
そんな感想を抱きながら画面に夢中なヒロさんを見つめていたら、不意に昔の事を思い出した。
一緒に暮らしだして少しして、これくらい凄い雪が積もった事があった。
寝不足でぼーっとする俺を外へ連れ出して、子供に交じって懸命に雪だるまを作っている姿は可愛かった。
久しぶりにテンションの上がったヒロさんは俺の服に雪を突っ込んだりして。
風邪を引かせたと勘違いした時、作ってくれたお粥の味は今も忘れない。
不器用ながらに俺の為に何かをしてくれたのが嬉しくて。
「ヒロさん、外行きませんか?」
俺が声をかけるとテレビに集中していたヒロさんが嬉しそうに振り返った。
テレビ画面は既にパンダだるまから別のニュースに変わっていて、スタジオに戻された映像は酷く寂しく思えた。
「行く!行こうぜ!野分!」
元気良く返事をしたと思ったら、ヒロさんは着替えてくると言ってバタバタと自室へと走った。
(俺もコート出してこよう。)
ヒロさんは本当に雪が好きみたいだ
いや、あれはさっき画面でパンダだるまを見たからだろうか?
色々考えてはみるけど、結局途中でそんな事どうでもよくなるんだ
「野分〜!ほら、行くぞ!」
準備が出来たらしいヒロさんが玄関から俺を呼ぶ声が聴こえる。
「あ、はい!待ってください!」
俺は思考を振り切り、慌てて自室のコートを肩に引っ掛けて玄関へ向かった。
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