君に捧ぐ純情(短編)
□あなたならかまわない
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「先生は恋人と、どのくらい会ってますか?」
教師になってから何年も経って、生徒に教えられた事がある。
夕方、全ての授業が終了しそろそろ帰宅しようと机の上を片付けていたら借りっぱなしの本が出てきた。
「あ…やばい。」
それは明らかに宮城教授のもので、今朝教授が探していた本だった。
しかし自分は既に返したつもりでいて、持っているか問われても「知らない」と答えたのだ。
(どうしよう…急いでたら悪いし、一応教授の研究室寄ってみるか。)
オレは片付けを済ませてから戸締りをして、鞄と本を手に教授の研究室へ向かった。
****
「失礼します、上條です。」
教授の研究室の扉を開けば、何人かの生徒がいた。
質問をしているのか、生徒たちが座っている椅子が円状になって教授の机を囲っている。
しかしその雰囲気は勉強というよりも雑談に近いイメージを受けた。
「あ、上條先生だ!」
教授と何か話をしていたらしい女子生徒が、オレに気付いてそう言えば周りの生徒が全員こちらを見た。
「あ!そうだ、上條先生に聞いてみれば?」
「え?でも、興味なさそうだし。」
(何が?)
オレの話をしているらしいが当の本人は蚊帳の外状態で、生徒と教授だけで話は盛り上がっている。
訳が判らなくてオレはそのまま出入り口に立ち尽くしたままだった。
「何言ってんだ、お前ら。上條はな〜。」
教授が口を開いた瞬間に嫌な予感がした。
そして嫌な予感というのは大概当たるもので…
「興味ないなんてとんでもない!ああ見えても上條には、ラブラブな恋人が居るんだぞ☆」
それを聞いた生徒たちは一瞬固まり、一斉に騒ぎだした。
「えぇ〜?!!うそ!?どんな人なんですか?!」
「意外、意外!なんだ〜先生も恋人居るんですね!!」
……帰りたい。
オレは教授の研究室を訪ねた事を激しく後悔した。
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