君に捧ぐ純情(短編)

□愛しい人よGoodNight
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目を開けたら朝方で、目の前にある寝顔が朝日以上に眩しくて思わずもう一度目を閉じた。

身体を捩って野分を起こさないように布団から抜け出し、冷気の漂うベランダへと足を向けた。

ひたひたと床を歩くと冬の初めの空気が全身を包み、つま先から寒さが這い上がってくる。

ベランダを開けるとつま先だけだった寒さが全身に広がり、正面から風をまともに受けた。


(寒いけど、気持ちいい…。)


スリッパを履いて格子に寄りかかり外を眺めると、丁度朝日が昇り始める時間帯だった。

まだ寝静まっている街の人達を起こすように、視界の端から順に明るい色へと染めていく。

こんな風に夜明けの時間帯に起きる事なんかなかった

いつもはどちらかと言えば寝坊するタイプで、起きていたとしても本を読んでいるから気付かない。

オレと野分の生活リズムは違っていて、不規則な野分と異なり教師というのは一般的な時間帯の中で生きている。

だから中にはそうでない人もいるだろうが、オレはわざわざこんな時間に起きたりはしないのだ。

しかし野分と一緒に暮らすようになって、出勤時間がまばらな研修医という非一般的な日常を思い知った。

オレが寝ている間に布団を抜け出して出勤していて、起きたらいなくなっていた事なんてざらだ。

寂しいと思うことも多々あるけれど、野分と出会って知ることが多かった

十分に人生を全うしてきて、ほとんど知ったつもりでいたがこんな風に野分は未だオレの知らない世界を教えてくれる。


「ヒロさんの方が早いなんて珍しいですね。」


ベランダでぼーっとしていたら不意に背後から声が聴こえて振り向かずに返事をした。


「あーうん。何か目、覚めたから。」


そんな風に素っ気無く答えると、野分はオレを包み込むように背後から手摺りに手を掛けてオレを囲い込んだ。

恐らくは薄着のまま風に当たっているオレを見て、いつもの野分の心配性が出たのだろう。

その体勢はまるで抱きしめられているみたいで何だか落ち着かない。

だけどこうして誰かに抱きしめられる事がこんなに安心する事を初めて教えてくれたのは野分だった。

こんな風に愛しさと同時にオレの世界を広げてくれる

そんな野分を自分はこれからも好きで、そして野分にもオレの事を好きで居て欲しいと思う

そうして二人でもっともっと知らない世界へ踏み込んでいこう


「…って、今何時だ?」


思い出したように部屋の時計を見れば起きるには未だ早い時間だった。

確か野分も今日は休みだったのを思い出して野分の腕から抜け出して部屋へ戻り、時計を見上げたまま呟いた。


「まだこんな時間だったら今からもう少し寝れるな。」


そうやってオレが二度目を決め込もうとしたら呆れた表情をした野分がオレの後ろを歩きながら笑った。


「起きたんじゃなかったんですか?」


「そうだけどやっぱ時間あるならギリギリまで寝る!お前も休みだろ?たまにはゆっくり療養しろ!」


そんな理由をぶつけながら再び布団に潜り込んでチラリと野分に視線を送って、少しの沈黙の後におずおずと声をかける。


「おい…来ないのか?」


そう言いながら控えめに布団の隣を空けてやれば、野分は思っていた以上に嬉しそうな顔をした。


「…今行きます!!」



寒いからと言い訳して
いつも以上に野分を強く抱きしめた



END


→あとがき


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