君に捧ぐ純情(短編)
□今夜月のみえる丘に
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人間、こうも現実を受け入れられない時にでも頭が冷静ならば怒りという感情は湧いてくる。
オレの額に青筋を認めながらも、目の前の男は必死に状況を改善しようと口を動かす。
「だから、えっと…この前行った丘には言い伝えがありまして…。」
「……言い伝え?」
オレがどす黒いオーラを醸し出しながら出した言葉は普段よりも若干高めの声だったが、相手は更に必死になった。
「はい。なんでも満月の夜に丘にのぼると、月の中のウサギが嫉妬して悪戯をするらしく…」
奴曰く「言い伝え」らしいが、オレから言わせれば間違いなく立派な「呪い」の類だ。
嫉妬、という事は少なくとも恋人と行ったら確実に何か起こるということで
「じゃあ何か。お前はそれを知っててオレと行った訳?それに肯定するならこの件の責任はお前にあるわな。」
更に責める口調で言えば相手は完全に言い訳するのを諦め、正直に罪を認めて可愛らしく言った。
「だって…俺どうしても一回、ヒロさんになりたかったんですv」
可愛らしく言う自分の姿に思わず吐き気がした。
そう、何故か在り得ない事に今オレと野分の身体が入れ替わるという事態が起こっている。
(殴りたい…。)
野分の身体で本気を出せば、確実に仕留められる気がする。
オレは半ば本気でそんな事を考えていた。
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