君に捧ぐ純情(短編)

□世界は廻るというけれど
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日本とは異なる風に吹かれながら、視界の端でクルクルと廻る神秘的な建物を眺めること数分。

こういう光景は絵葉書とかテレビとか、何かの媒体を通して見た事があるモノなのだが
どういう訳かそれらは今自分が実際に見ている世界の一部らしかった。

広々とした風景の広がる裏路地の階段に腰を下ろし、特に何を考えるでもなく自由時間の大半をそこで消費していた。


(あぁ…もう終わるのかな…。)


失くす事をあんなに恐れていたのに
言葉一つで壊れていく

恋愛がこんなに繊細なモノだったなんて




****




日本を発って十数時間、今更だが自分の予想が大幅に外れていた事を思い知る。

確かに冊子には「ヨーロッパ」としか書かれていなかったが、研修旅行というからには判りやすい国だと思っていたのに。


「みなさん!長旅お疲れ様でした〜!オランダに到着しましたよ☆」


引率の教師が研修旅行なんて微塵も感じさせない弾けっぷりで、騒ぎ出した生徒の中オレ一人だけ頭を抱えた。

ダメだこいつら
勉強する気なんか更々ゼロだ





「何でオランダなんだ…。」


別にオランダを批判する訳じゃないが、語学に力を入れる総合学科中心の研修ならそれこそイギリスが妥当だろうと思うのだ。

なのにその選択を逸らすという事は、学校側もそれ程研修を目的としていないということで


(もしかして本気で勉強目的で参加したのってオレだけ…?)


そんな結論に至り判りやすく落ち込んでいると、座っていたベッドのスプリングが僅かに軋んだ音を立てた。


「どうしたんですか?何か忘れ物ですか?」


そう言いつつさり気無く室内備え付けのコーヒーを差し出してきた野分に、オレは益々頭を抱えた。

コーヒーを受け取りながら悠長な質問を寄越した後輩に、何でもないと誤魔化しながらインスタントを口にする。

外国のホテルも日本と然程違いはなく、そういう点では気兼ねなく過ごせそうで今回唯一安心できるポイントだ。

しかし油断ならないポイントの方が多い訳で


「…っていうか何で当然のようにお前と同室な訳?」


あまりにさり気無くてスルーしてしまいそうになったが、そもそも部屋割りに関してオレは何の希望も提出していない。

なのに狙ったようにこいつと同室なのは裏で何らかの陰謀があったに違いない。

ある程度核心を持って訊ねれば、野分は何の罪悪感もない笑顔でサラリと答えた。


「俺が先生にお願いしてヒロさんと二人部屋にしてもらったんです。」


だって新婚旅行みたいじゃないですか



そんな事をいい笑顔で言う
この時ほどこいつを殴りたいと思ったことはない


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