君に捧ぐ純情(長編)
□君連れ去る時の訪れを
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自分で言うのも何だが、オレは結構成績は優秀な方だ。
この世界において必要な知識は大体テストに合格しているし、上司の手を煩わせる項目なんかひとつもなかったのに。
だけど目の前の上司はオレに告げた。
“人間界へ行って、心を学んで来い”
「あの…何でオレが選ばれたのか聞いてもいいですか…?」
オレは若干混乱している思考をどうにか切り替えようと、上司に理由を聞いてみた。
すると上司は悠長な感じに、のんびり口調で答えたのだ。
「アナタは確かに成績も優秀で、魔法使いとして申し分ない出来の方です。
しかし、それだけではダメな事もあるのですよ。」
「…たとえば、どんな事でしょうか?」
オレが再び問うと、上司はニッコリ笑って答えた。
「たとえば、アナタは誰かと心を通わせた事はありますか?」
「…はぁ…まぁ、ないかもしれません。」
指摘されてみてば自分のこれまでの人生を振り返ってみても、極力誰かと関わるのを避けてきた部分もある。
何と言うか、そういうのが苦手なのだ。
(だからなのかな、オレが選ばれたのは。)
心の中で少しずつ理由が見えてきた所で上司が言葉を続ける。
「アナタにより成長して欲しいから、だから学んできて欲しいのです。誰かの想い、心を知るという事を。」
「…はい。」
オレは何となく納得して、決定された事項にこれ以上反発することを諦めた。
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そもそも人間界への旅には、大体成績の悪い者か問題を起こした者が罰として飛ばされる事が多かった。
なので成績をそこそこトップで守っている自分に、まさか話が来るなんて思ってもいなくて驚いた。
でも理由を聞いてみればそうではなく、自分に欠けている“感情・心”というモノを理解して来いという事だった。
(そういう事なら仕方ないか。)
オレは潔く諦めて上司から受け取った、数日後から行く事になる人間界への説明書きに目を通した。
住むところや立場などは適当に何とかしてくれるという事らしい。
続いて注意する点という項目に目をやる。
・魔法は基本的にバレない程度なら使っても良い
・但し人間の心変わりをさせるなど、その人物に影響を与える魔法は禁止
・あくまで人と触れ合う事が目的
・絶対に恋に落ちてはいけない
君達には特殊な魔法がかけてあり、万が一にも誰かとキスをすれば…
その人から、自分の存在は消えてしまう
(最後のは関係ないな。)
自分に限って誰かと恋をするなんて絶対にありえない
そう思っていた
これから訪れる運命を
この時は知らなかったから
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