君に捧ぐ純情(長編)

□輝く運命はその手の中に
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最後に何かを叫んでいた

その人が誰かさえも
今の自分にはわからない





目を開けるとそこは真っ白で、眠りに落ちる前居た場所とは違う事に気がついた。

四方を真っ白な壁に囲われた酷く殺風景な部屋で、季節を思い出せないくらいに熱くも寒くもない。

簡素な寝間具に包まれたまま床に投げ出されていた身体が妙に痛くて、不安定な場所でそれだけが唯一現実を感じさせた。


(どこだっけ…?)


寝起きの頭を巡らせても記憶の中には該当しない部屋に不信感を抱きつつドアに歩み寄った。

するとこちらが開ける前にドアが開き、さして明るくなかった部屋に光が差し込んで眩しさに目を閉じた。

逆光の中でドアを開けた人物が言う。


「今すぐココを出るぞ!急げ!!」


何の事なのか理解出来ないままだったが、その男に手を引かれるままに廊下を走った。

そこは何処かの施設らしく無駄に広くて長い廊下を煩わしく思いつつ、だけど必死で走った。

大人と違って小さい自分の歩幅では大人についていくのが辛かった。

長い廊下を抜けて施設の玄関口へ辿り着いた頃には息も絶え絶えに疲れ切っていた。

あの部屋と同じで無駄に白で統一されたこの場所に何故だか寒気がしていた。


「早く外に出ろ!」


そう促されて入り口へ向かい、先に外に出て振り返った瞬間

パン!

さっきまで一緒にいた男から真っ赤な血が噴出した。

チラリと見えた背後には銃を構えた奴らが数人見えて、怖気づいた足は歩く事を放棄して一歩も進まなかった。

しかしそんな自分に向かって、瀕死の男は言う。


「…走れ。走って…生き延びろ…!」


恐怖心の中でその言葉だけを糧にし、固まっていた足が再び起動を開始した。



それから一度も振り返らずに、何処をどう走ったのかさえも覚えていない。




ただがむしゃらに

「走れ」

その言葉だけが
耳に残って離れない

.
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