君に捧ぐ純情(短編)
□アオゾラカナタ
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朝普通に家を出て、今日も何気ない1日が始まるんだと思っていたのだが…
研究室の扉を開ければ、そこには見慣れない光景が広がっていた。
「………?!」
扉を開けて固まっていると、振り向いた教授がオレに気が付いて
「あ〜上條、いい所に来た!」
そんな事を言うから思わず身構えた。
このセリフを言う時の教授は、必ずよからぬ事を押し付けてくる可能性が非常に高いのだ。
経験上何となく危険を察知したが、研究室にはもう一人来客者が居て普段みたいに怒鳴りつけるのが躊躇われた。
「おはようございます。上條先生。」
「…おはよう。」
返事を返した彼女…恐らく女子生徒の腕の中には何故だか子供が居て、思わず視線が持っていかれた。
子供の事には詳しくないが、見た目的に1〜2歳ぐらいの子だった。
「家族が全員家空けることになって面倒みる人が居ないって言うんで、仕方なく連れて来たらしいんだ。
今日受ける講義は朝一番の俺のだけらしいから、上條…その間この子見ててくれ。」
状況は理解した。
確かに誰も居ない家に子供一人で放置しておく訳にもいかない。
事情はわかったが自分には責務が重すぎるし、大体不安要素が多すぎてとてもじゃないが安請け合い出来ない。
「…教授。スミマセンが、自分ではお役に立てないかと思うので他の方を抜擢されてはどうでしょう?」
「なんだよ〜上條!困ってる生徒を見捨てるのか?」
まるで薄情者呼ばわりな教授の言葉に、弁解するように答える。
「違いますよ。事情は判りましたが、自慢じゃないけどオレ…子供の扱いとか接し方とか判らないんで。
たぶんお役に立てないと思って言ってるんです!」
強く意見すれば何故か教授は嫌な笑顔をニヤリと見せて言った。
「え〜?じゃあ電話して聞けばいいじゃん。彼、確か専門分野じゃなかった?」
「な…?!///」
誰のことを言ってるのか逸早く理解したオレは、思わず素直な反応を返してしまった。
教授が言う“彼”こと野分だったら確かに子供相手の事なら専門だし、こういう場面で頼れる人物ではあるが…
(多忙で電話なんか出られないだろうな…。)
赤くなった顔を隠す為に少し俯いていると、教授はその間に素早く行動を起こしていた。
「じゃ、俺授業行ってくるから!後は任せたぞv」
「上條先生、お願いしますね!」
ちょっと油断している隙に勝手に話を進められ、気が付いたら二人はそんな事を言いながら扉を開けた。
「は?!ちょっと!オレには無理ですってば!!」
叫んだが時既に遅し。
教授と彼女は研究室を後にして、残されたのはオレと子供の二人だけだった。
(マジかよ…。)
直面している状況が信じられなくてソファに腰掛けたら、同じく同席していた子供と目が合った。
そして現在に至る。
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