君に捧ぐ純情(短編)

□love me,l love you
2ページ/6ページ




「好きです」

そう言われたのは
彼にとって何回目だろう?

特別過去には拘らない
むしろ俺の方が話すのを躊躇うくらいで…
だから彼の全てを知りたいけれど、辛い事なら訊かないでいいと思ったのだ

俺との『これから』を
愛しいと思ってくれるなら
過去は関係ないんだと

そう思ってた







『これからは俺に想われてください。』


その言葉に嘘はなかった。

自分なら全力で彼を愛せる自信があったし、泣いてばかりの現実を塗り替える自信もあった。

けれどそれ以降の答えをヒロさんから訊いていないのも事実で、気付かなかっただけかもしれない。


(本当は未だ、ヒロさんの中で終わってない恋があるのかもしれない…。)


誰しも今の恋とは別に、特別な思い出を持っている。

それは恋に限らないけれど、思い返すだけで一瞬にして蘇るソレは強烈に胸を打つ。

言葉・約束・出来事・場所…想う事はそれぞれ別でも、自分しか知らない懐かしさを秘めている。

多分ヒロさんにとってのソレが、過去に通った恋なのかもしれない。


『まぁ、心が得られないなら身体だけでも…そういう考えが判るような気もするけど…。』


無意識にそんな言葉が出てくる事がそれを物語っている。

大体にして普段は邦画を観ない人なのに、その中でもベタな恋愛モノを観る時点で明らかだ。

ヒロさんは多分、映画を切っ掛けに過去の恋を思い返してる

その発言以降は画面を見つめていたかと思えば、今度は何故かテレビから視線を逸らして黙り込んだ。

彼の視線が刺さっているのは何もない床で、その点からどうやら考え事をしているらしい。

何時もの如く眉間に皺が寄っているのかと覗き込んだら、珍しく皺はなかった。

代わりに視線が一切合わなくて、一点を見つめる瞳が寂しげに映った。

その間にも映画はクライマックスへと向かうが、画面の恋愛は二人の意識の端を滑っていく。


『アナタの中に何か残れば…そう願ってる。』





訊かないと決めたけど

嫉妬深い俺は
思い出の中でさえも
ヒロさんの一番になりたい


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ