君に捧ぐ純情(短編)
□世界は廻るというけれど
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当たり前だが勉強とは自分との戦いというか、ある意味自分への問いかけで成り立っているもので
だから誰かと一緒にという場合は自ずと何かの教えを請う時で、それ以外では有り得ないと思うのだ。
仮に二人で居る事に
それ以外の意味があるとしたら
「ヒロさん!今から自由行動らしいですよ!」
暫くの同居人となる後輩はバタバタと廊下を駆け抜けて勢い良くドアを開き、同様に勢い良く告げた。
その言葉にキーワード検索で“オランダ”と打ち込んでいたスマホから顔を上げ、思い切り眉を顰めた。
恐る恐る研修の冊子に目を凝らしてみるが、いくら探しても勉学に繋がりそうな行事は皆無で眩暈がした。
この旅行から勉学を除いたら
野分と二人で居る事の意味は…
「新婚旅行に海外を選ぶ人が多いんですって。人気なのはやっぱイタリア辺りですけど、オランダでも十分ですよね!」
嬉々として一人暴走を続ける後輩の言葉を聞き流しながら、隣でスマホで得た情報を脳内で繰り返す。
オランダ人の殆どが英語を話す事が出来るという点を除けば、他には特に得た情報はない。
という事はこれは本当に勉強の為なんかではなく、学校側からのご褒美旅行なのだろうか?
(成績優秀者限定なんていうから、てっきりその名の通り研修だと思ってたのに…。)
本当に自分は何のために来たのだろうかと悲しくなり始めた頃、隣で煩かった野分が顔を覗き込んできた。
そして意味深な爆弾を投下する。
「あの…やっぱり、他に誰か一緒に行きたい人とか居たんですか?」
「……は?」
突然静かになったかと思ったらイキナリ何を言い出すのか。
問われた意味が判らなくて瞬きを数回し、先程まで曖昧にしか見ていなかった相手の顔を凝視する。
オレの心からの困惑の表情に戸惑う事もなく、野分は若干言いにくい事を口にするかのように切り出した。
「俺は成り行きで行く事になったけど、ヒロさんは最初から希望してたじゃないですか。だから、何か目的があったのかな…と。」
出された言葉は何だか取り繕われたようなセリフで、何故かそこには真意がない気がして更に野分を問い詰めてみる。
「だから?…本当は何が知りたい?」
間髪入れず返すオレに野分は一瞬言葉を詰まらせるが、数秒して意を決したように口を開いた。
「俺、本当は不安なんです。結果的にこうして恋人になれても、今回の事でヒロさんを好きになった人がたくさん居るから。」
話が見えない
常々思っていた事だが、やはり学年2つの差は大きいのか時々こいつの言う事が理解できない時がある。
順を追って整理していくと…今回の事というのは例のゲームのことだとして
しかし何故そこに“オレを好きになる”という項目がイコールになるのだろうか?
さっぱり判らないなりにも何とか解読しようと、いくつかキーワードになりそうな物を投げてみる。
「あのさ…あれはゲームで、オレに告白してきたのだってオレのリング欲しさにであって誰一人として本気じゃないと思う。」
そう思ったから率直な意見を述べたつもりだったのに、その言葉に一瞬にして野分の何かのスイッチが入ったらしい。
「ヒロさんは自分の魅力に無頓着すぎます!!」
突然怒り出した野分に驚き、思わず言葉を失っている間に相手はドンドンと意見を押し進める。
「みんな実際にヒロさんに会ってみたら好きになったとか言ってたし、津森先輩だって面と向かって告白してきたじゃないですか!」
「でもさ、アレは…何ていうか冗談っぽい感じだったし。真に受けるまでもねーだろ。」
そうやんわりと後輩の憤りを和らげようと試みるが、どういう訳だか火に油を注いだだけに終わった。
「だから無頓着だって言ってるんですよ!もっと周りの視線に警戒するって事を覚えてください!」
しかしその言葉でオレの心にも火が点き、カチンと音を立てた。
「…そうかよ。悪かったな無頓着で!でもそういうお前だって周りの視線もっと警戒した方がいいんじゃねーの?」
宥めなければならないオレも
気が付けば反撃の言葉を放っていた
遠い遠い異国の地で
お互いの不満がぶつかり合う
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