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□Ruby 『平和に願いをこめて』
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「ちぃ、疲れてないか?少し休もうか。」
桂木さんは日傘を片手に汗を拭きながら歩く私に声をかけてくれた。
「そうですね。冷たいものでも頂きましょうか。」
ふたりは長崎の市内観光で来ているグラバー園の石畳を歩いていたので園内にあるカフェに立ち寄った。
桂木さんは仕事柄、綺麗に固められた髪、顔に汗をかかず涼しい顔をしている。
(凄いなあ。やっぱり鍛え方が違うんだなあ。カッコイイ)
向かいあって座るカフェのテーブルで桂木さんに見惚れていると
「ちぃ、どうした?やっぱり疲れたんじゃないのか?」
桂木さんは心配そうに言う。
「ううん。違いますよ。」
「それならいいが。無理はするなよ。疲れたら背負ってあげるから。」
「そんな!いいですよ。恥ずかしいです。」
「ふっ、冗談だよ。」
ふたりはコーヒーもそのままに笑いあった。
(出会った頃の堅い桂木さんがこんな冗談を言うようになるなんて何だか変わったなあ。
柔らかくなったというか。
幸せそうで私も嬉しい。)
少し涼んだあとグラバー園のメインの洋館の中に入った。
昔の雰囲気そのままに再現されている。
「なんだか日本にいるのを忘れてしまいそうですね。」
「そうだなあ。重厚な家具や備品がどれも異国情緒にあふれているな。」
「どんな暮らしぶりだったのか忍ばれますね。」
「そうだな。いい時代を…」
と言って桂木さんの動きが止まった。
「桂木さん?どうかしました?」
「あ、いや、気のせいだろう。さあ、いこうか。」
それからの桂木さんはなぜか少しペースをあげて私をエスコートした。