帽子屋さん2

□かなわない人、叶わないもの
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私には、好きな人がいた。
その人は私の幼なじみで、到底手の届かない人物だった。
金持ち、秀才、天才。



ファンクラブや、先生、部活の生徒。
誰からも一歩距離をおかれていた。



遠くからみていれば害はない。
ーそんな位置から、彼は尊敬されていた。



だから私も、この恋は諦めていた。



『赤司』


「どうした?」


『……ごめん、何でもない』



私は彼の目をみて話すことができなくなっていた。
うまく言葉にならないまま、結局は“何でもない”と化してしまう。



「お前はいつも、何に悩んでいるんだ?」



それは、唐突だった。



赤司は急に目をあわせてきた。
私の肩を、逃がさないよう両手で掴んで。
気まずくそらそうとすると、“そらすな”と命令が下る。



「幼なじみがそんな調子だと、こちらが気になるだろう」


『別に、悩んでる訳じゃ…』


「じゃあ何故、目をあわせない?」



真っ直ぐな赤い目。



『そ、れは…』



そらせない、逃れられない。



『それは……赤司…が…』


「昔は征十郎と呼んでいてくれたのにな」



その目は、ごまかせない。




最初の一言を今、訂正します。



私には、
ー好きな人がいます。





ーかなわない人、叶わないものー


(それは、貴方と貴方の言葉)





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