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□幸せになろう
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昔、君はきっと無意識だったんだろうけど、すごく綺麗な表情で笑いかけてくれたんだ。
その笑顔に心を奪われてしまってから、ずっと君を見てきた。
ずっと好きだったんだ。
幸せになろう
「あ、サエじゃん。おはよう」
通学路をぼうっと歩いているときに後ろから声をかけられた。
「おはよう亮、淳」
振り返って朝の挨拶を交わしながら、足を自然に亮の隣に向かわせる。
思いがけず亮に出会えた事に少しどきどきしている自分。
今日はついてるな、なんて思いながら隣を歩く。
でも今は淳と亮の二人が会話してしまっていて、淳にちょっと嫉妬してしまっている自分に溜め息がでる。
仲が良いのは今に始まったことじゃないし、弟に嫉妬なんて。
自分の中の醜い感情を追い出して、俺は会話に加わることにした。
亮の事は好きだ。
だけど淳も大事な友達で、嫉妬なんて感情の矛先にしたくない。
そう朝に思ったはずなのに。
部活の終わった部室で、二人がこっそりキスをしているところを見てしまった時に俺は醜い感情が湧き上がってしまった。
部室にある忘れ物の事なんてもう頭になかった。
二人から目が離せなくて、自分の心拍音で何も聴こえない。
とにかくここを離れなくちゃ、何とか足を動かして一心不乱に走った。
もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。
ずっと好きだった、亮だけを見てた。
兄弟愛ゆえだろうと思っていたスキンシップ全て、恋人に対するそれだったのか。
淳に対する恋敵としての気持ちと、友達としての気持ちが矛盾していてどうすればいいのかわからない。
自分の部屋に着いた頃には、涙で顔がびしょびしょだった。
きっと明日は目が腫れるだろう。
でも溢れて来る液体を俺は止めることが出来なかった。