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□おかえりただいま
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おかえりただいま
暑い、汗が垂れるのを感じながら足を進める。
いつもなら、わざわざこの暑い中クーラーのきいた部屋から出たりしないけど、今日は淳が千葉に帰ってくる日なんだ。
そろそろ駅に着いただろうか。
心なしか、顔の筋肉が緩む。
淳の後姿が目に入ったから。
「おかえり」
後ろから淳を覗き込むと、驚いた様で、眼を見開いていた。
「ただいま」
眼を細めて微笑むから、俺も釣られて笑顔になる。
「まさか迎えに来てくれるとは思わなかったから、驚いたよ」
「わざわざ到着予定時刻をメールで送ってきて、まさかはないだろ」
昨日の夜、時間だけ記してあるメールを送られてきて、淳が何を考えているのかわかった。
「でも亮の事だから、分かってて来ないかもって思ってた」
「そんな事しないよ」
俺も早く淳に会いたかった、なんて恥ずかしくて口には出さない。
でも、淳には伝わったようで、手を握ってくれた。
「淳!ここ駅だぞ」
嬉しい反面、人の目が気になってしまう。
「嬉しいくせに。大丈夫だよ、ぱっと見だと亮女の子に見えるから」
「見えるわけないだろ!」
反論するも、手は解かれずに淳は前を歩き続ける。
俺よりもちょっとだけ高い身長が悔しい。
けど、手を引っ張ってくれる姿がかっこよく見えたから、手を握り返すことにした。
「どうしたの、今日はやけに素直」
「俺はいつも素直だろ」
「クスクスよく言うよ」
折角淳が帰って来たんだ。
今日は珍しく甘えてみようか、なんて。
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