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□靡くまであと少し
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すごく自分勝手なやつだ。

俺はあいつを嫌いだって言っているのに、俺はお前を気に入ったなんて言って手を掴んできた。

不機嫌さを隠さない俺に、満開の笑顔なあいつ。

なんて可笑しな光景だろう。


俺はあいつに睨むような視線しか浴びせていない。
俺はあいつに敵意しか向けていない。


そんな俺を何で気に入るようなことがあるのだろうか。


「手、離せよ。痛い」

目の前の金髪を睨みつける。

「離したらやー逃げるやっさー」

「当たり前だろ。俺はお前に用はないんだよ」

こいつに惨敗した俺は、顔を見るのも嫌なんだ。

「わんにはあるんやっさー」

惨敗した悔しさと聞き慣れない言葉にイライラが募る。

「知るか!とにかく手離せよ!」

声を荒げる俺とは対照的に、こいつは嬉しそうに口許を吊り上げる。

何だこいつ!
俺をからかってるのか。


あいつの片手が俺の顔の近くまで伸びてきて、思わず固まってしまった。

「やーの髪、でーじちゅらさん」

髪を一房、掬われた。
すごく優しい笑顔で。

ふわりと香水の匂いが漂ってきて、くらりとする。


何を言っているのかいまいち分からないけど、きっと褒めているのだろう。


俺が大人しくなった事があいつの気を良くしたのか、さらに髪を弄び始めた。

良い様にされるなんてプライドが許さないのに、何故か動けない。


すると急に、掴んでいた手を離して首に何かをかけられた。


「だぁやわんのお気に入りやくとぅ、」

代わりに俺の帽子を取られる。

「何すんだ、返せ!」

あいつに伸ばした手もかわされて。

「明日返しーよー。うぬネックレスとくぬ帽子とで交換だしよ」

あいつは俺の帽子を被りながら、俺の首元を指さす。

首元に視線を下げるとシルバーのネックレスがきらきら光っていた。


「明日くまで、約束やっさー」

そう言ってあいつはひらりと立ち去ってしまった。

俺はよく現状を飲み込めないまま、立ち竦んでしまって。


自分からあいつに会いに行かなければならないのは癪だけど、帽子は返してもらわないと困る。

きっと明日ここに来ると、憎らしいほど笑顔のあいつが俺を迎えるんだろう。


帽子と返してもらったらすぐ逃げよう。
そう俺は強く誓った。

絆されかけている自分に気付かない振りをして。



靡くまであと少し
end

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