text

□いとしい
1ページ/1ページ



クーラーの効いた部屋に俺と亮の二人。

小さな机を挟んで宿題の問題集を解いている亮に視線を向ける。


亮は真面目な顔で問題集に集中している。
俯く目を覆う長い睫毛とか、白い肌とか、すごく綺麗。

部屋はとても静かで、するのは紙上を走るシャーペンの音と微かに聞こえる蝉の鳴き声だけ。


俺はシャーペンを動かす振りをしながら、亮から目が離せなかった。


さすがに視線を感じたのか、亮が目線を上げる。

「何?さっきからじっと見てきて」

「別に。ただ亮が可愛かったから」

俺のそんな台詞に慣れてしまっているのか亮は照れも怒りもせず、いつも通り。

「宿題一緒にしようって言ったのサエだろ?
 ふざけてないで、真面目にやれよ」

呆れた様な仕草で俺の問題集を指さす。

宿題なんて只の口実で、俺は恋人と過ごす時間が作りたかっただけ。

でも、亮の意識はまた問題集に向いてしまった。

仕方ないから俺はまた亮の観察。
亮を見ているだけで俺は何だか楽しい。

大きくつり目がちな目が紙面をなぞる様に動いている。

早く俺を見てくれないかな。

すると思いが通じたのか、さっきまで紙面を映していた瞳が俺を捉えた。

「本当にさっきから何なんだよ」

「だって亮が俺を構ってくれないから」

亮は眉を顰めて不満そうだ。

「構ってって…サエが宿題やろうって言ったんだろ」

「そんなの口実。」

そう言って、目をぱちぱちさせてる亮を抱き締める。
すごく可愛い。

すると、亮も俺の背中に両腕を回してくれた。
くっ付いてくる体温が心地いい。

「構って欲しいならそう言えばいいのに」

聞こえた声はさっきよりも柔らかくて、嬉しくなる。

「うん、今度はそうするよ」

「サエが抱き付いてきたりするから、宿題する気なくなっちゃったじゃん。ばか」

「ごめんね、亮が可愛かったから」

「さっきも聞いたよ、それ」

「だって本当だから。亮はすごく可愛い」

「…」

今度こそ照れたのか、亮は何も言わなくなった。
でもさっきより密着してくれる。

そんな亮の頭を撫でながら、ゆっくりと時間は流れていく。


「サエが温かいから眠たくなってきちゃった。
 二人で昼寝しようよ」

俺の胸に埋めていた顔を上げて、亮ははにかんだ。

「そうだね」

二人で抱き合ったままふかふかのカーペットの上で目を閉じた。


end


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ