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□お前の中に俺はいない
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すました顔している癖に、案外脆いあいつが気になって仕方が無いんだ。


お前の中に俺はいない


淳が東京の学校へ転校してしまった。

途端、感情をあまり表に出さず、冷静な亮が崩れ始めた。


いつも一緒にいた淳が隣にいない違和感、不安、寂しさ。

今までならそのポーカーフェイスで覆っていたであろう感情が読み取れてしまう。


何を考えているのかよく分からなくて。
ひらりとかわすのが上手くて。
掴みどころがない。

それが俺の亮に対する印象だった。


でも、淳がいなくなってからは様子が少し変だったから。

「そんな暗くなるなよ。またすぐ会えるし、元気出せよ」

努めて明るく、肩を軽く叩いたりして励ましているつもりだった。
けど、亮の手が俺の手を払う。

「聡に何がわかるんだよ!」

俺を睨みながら珍しく感情をあらわにするから、少し物怖じしてしまって。

「…ごめん」

励ますつもりだった言葉が亮の癇に障るってしまったのだろうか。
気まずくて、亮の顔が見れない。


「俺こそごめん、淳がいないなんて初めてだからどうしていいかわからなくて」

亮の伏せた瞳は潤んでいて。

寂しいんだ、そう言う亮を抱き締めたい気持ちに駆られたけど。

亮は淳のものだから、背中を優しく撫でることしか出来なかった。






「聡、おはよう」

「お、おはよう」

一目でわかるくらい亮は機嫌がいい。

「やけにご機嫌だけど、何かあったのか?」

「次の休みに淳が帰ってくるんだ」

なるほど。

亮に笑顔が戻ったのは嬉しいけど、亮を喜ばせるのも、悲しませるのも淳にしか出来ない。

そう思うと遣る瀬無い気持ちになった。



それからは淳が帰ってくるといつもの亮に戻って、少し時間が経つとまた寂しげになる。

亮を置いて行ったのに、それでも亮は淳に依存している。

こんなに傍にいるのに、遠くにいる淳に敵わない。

こんな状態が悔しい。
隙があれば奪いたい。

だけど、淳の話を嬉々と話す亮を見るとこの思いを伝えることができない俺は弱虫だ。



そしてまた動けない侭繰り返す。




end


お題お借りしました
虚言症


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