恋物語

□GOLD FOX and BLACK LEOPARD
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――今日の俺は、どうもひどく運が悪い。


「しくじった…」


舌打ちをしたエルフの男は、身体が深緑色の光に覆われ
だんだんと動く速度を遅めてゆく。
…足下には、無惨にも細切れになったグールの亡骸。


「シアン…枝…」

つぶやきながら、鞄を探る。
該当する治癒の秘薬は…見当たらない。


「クソッ…!」


男は乱暴に鞄を閉じ、重い足取りで近くの小さな廃屋へと向かう。
…確かにそこへ進んでいるのに、廃屋から遠ざかっているような錯覚を感じた。


「扉を閉めれば…なんとか…」


早くしないと麻痺毒が身体全体に回り、身動きがとれなくなる。
一生懸命歩く男に焦りの色が見え始めた。


――バリンッ!!


「……!」


後一歩でドアノブ、というところで男の両足は硬直した。
バランスを崩し左手をかけた場所は、扉の横の窓ガラス。


「つ…っ!?」


…即座に血が吹き出すが、もう自分では止められない。
痛みに顔をしかめていると、廃屋の中でガタリと何かが動く音がした。


「…誰?誰かいるの?」


奥の方で、若い女の声がした。
…不幸中の幸いなのか、はたまた絶体絶命のピンチなのか。


「…グールの毒にやられた。治癒薬を切らしてる…
中に、入れてくれないか?」

男は全てを覚悟して、扉の向こうへ声をかけた。


――ガチャリ…


…ついに麻痺毒が全身に回り、男はその場へ仰向けに倒れた。
それと同時に扉を開け、その顔をのぞき込む一人の女。


――その姿は、褐色の肌とセミロングの銀髪…
そして長い耳を持った、ダークエルフの娘だった。
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