■別れ

買ったばかりの服を着ていつもより早く塾に行った。
豊先生に話したいことがあった。
いつもと変わらない道をバスを降りて歩いて行く。
塾はもう2学期の授業が終わったらしくて
生徒は誰も居なかった。

「こんにちわぁー」
入ってすぐに分かった。
・・・なんか雰囲気が違う。
あたしの嫌いな個別の先生が1人で仕事をしていた。
個別の日程表には新しい先生の名前。
「今日新しい先生来るんですか?」
「そうそう今日からね。
もう先に言っとくけど豊先生A校に移動になったから。」
あたしは何も言わずに豊先生の席を見た。
    パソコンがなかった。
    豊先生の教科書がなかった。
「うそだ・・・」
それ以上言葉が出なかった。
席について数学の宿題を開いたけど
頭が真っ白になって涙が溢れてきた。
あたしは塾を飛び出して家に帰った。

こんな事があるわけない。

あたしは事実を受け入れる事ができなかった。
涙が止まらない。
声を上げて泣いた。
豊先生の笑顔が浮かぶ。
「死にたい」
素直にそう思ったんだ。
豊先生が居ない生活なんて考えられなかった。
いつも一緒だった。
あたしを初めて肯定してくれた。
豊先生には何でも話せた。
あたしが心から信頼できるたった1人の大切な人。

・・・モウ一生逢ゥ事ガナイノ?

夜中泣いて朝になって生きてる事が悔しくてまた泣いた。
「こんなに胸が苦しいなら死んだ方が増しだ」
初めてこんなに泣いた。
苦しくて 苦しくて
24時間涙が止まらなかった。
どうして・・・
あまりに突然すぎるよ・・・
行ったら居ないなんてあんまりだよ・・・
それまで頑張っていた勉強もまったくする気がなくて
部屋から1歩も出たくなくて
目の前にある一線を越えてしまえば
すぐにでも手首を切りそうだった。
辛かった。

手首を見れば2つのミサンガ。
あたしは実感した。
今のあたしに必要なのは達也先生なんかじゃナイ。
達也先生への想いはかぎりなく白に近かった。
今のあたしに必要なのは豊先生だけ。
大切で大切で傍に居てほしい人。
笑顔1つであたしを幸せにしてくれる人。

ねぇ、
いつまでも続くと思ってた毎日が
儚く消えてしまうなんて。
生まれて初めてこんなに人を想ったんだ。
神様お願い、
過去に戻れないなら
あたしを
死なせてください

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