■冬講

冬講の申し込みが始まった。
冬休みになれば授業時間も達也先生とズレるし、会わなくてすむ。
ちょっと距離がおける。
達也先生への思いも少しずつ薄れていくと思ってた。

冬講の申込用紙を眺めながら
あたしは自分でもびっくりするような行動をした。
[ 冬講個別授業 達也先生希望 ]
やっぱりあたしは
達也先生と離れ離れではやって行けない。
遠くなってきた達也先生との距離を生める最後の手段。
それは達也先生の生徒になることだった。
あたしは冬講だけ個別に行くことにした。

達也先生があたしの授業に入るのは4回だった。
いつもと違う雰囲気。
いつもより近い距離。
何もかもが初めてでとまどった。
何十センチの距離の中で
あたしは『達也先生を好きなこと』を再確認した。
だけど
達也先生は少しずつあたしから離れていこうとしてた。
プレイベートな話や自習室でのおしゃべりはなくなっていたし、
他の子との対応より冷たいことに気づいていた。
だけど気づいてないフリをしてた。
気づかせないで。
授業のたびにメモをとる達也先生の薬指も見ては
胸が『チクっ』って痛む。

分かっていたんだ。
形だけ『達也先生の生徒』になったって
この距離は埋まらないって。
もう夏には戻れないって。
だけどそれを受け入れたくなくて必死に逃げてた。
でも
思い知らされた。
どんなに頑張ってももう過去には戻れないんだ。
あたしの恋は
長い長い一方通行なんだ。

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