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あたしは入試の2週間前に知った。
達也先生が春からも同じ塾で働くコト。
教えてくれたのは豊先生だった。
豊先生の授業が終わって教室に2人きりだった。

「今日、聞いたんやけどな、、、」
「何?」
「達也先生、来年度も居るんだって。」
「・・・ウソでしょ?」
「本当だよ。昨日の会議で聞いたから。」
「でも、あたしはお別れするって決めたから・・・」
「高校部には入らないんだよな?」
「そうだよ・・・もう塾は卒業するって決めたんだ・・・」

そう、あたしは覚悟していた。
達也先生と逢えるのはあと1回だけだって・・・
もう、あたしの力じゃどうにもならないくらい遠くに行ってしまうと
思っていたからーー
だけど
塾の先生を続けるなんて・・・
あたしは口では辞めるなんて言いながら本当は嬉しかった
『いるなら戻ってくればイイじゃん』
そう思ってた。

「舞、絶対に戻ってきたらだめだよ?」
「・・・。」
「辞めときなよ?」
「・・・どうして?」
「達也先生はそこまで舞が好きになるほどイイ男じゃないから。」
「何、ソレ・・・」
「舞が達也先生を好きなのは分かるよ?
だけど、もう終わりにしなきゃ。高校生活は楽しいコトが待ってるんだよ?
また1年塾に通いつめるんか?
そんなの舞の人生がもったいないと思うよ?」
「あたしの1番の幸せは達也先生が横に居ることだから・・・
高校生活なんかに楽しさなんて求めない。
あたしはこれから叶わない恋しながら苦しみながら生きていくんだよ・・・きっと。」
「舞はまだ子供だから・・・
分かんないかもしれないけど達也先生に恋して苦しみながら生きるより
もっと高校生らしい楽しいコト見つけなよ?」

涙が出た。
高校生らしいって何?
あたしの幸せはあたしが決めるコトでしょ?
ねェ、あたしはお別れする覚悟できてたのに・・・

「・・・じゃぁ、じゃぁどうして達也先生が塾辞めない、なんて言うの?
どっちにしろお別れしなきゃいけないなら
辞めてしまうと思ってた方が良かったし・・・
達也先生は塾に居るのに
逢えないなんて1番辛いじゃんか・・・」
「そうやなぁ、、、ごめんな、、、
でも舞はそれでも辞めるって思ったよ?
強くなって高校生として新しい道を進んで行くってこないだ笑顔で言ってたじゃんか?」

豊先生はバカだ。
どうしてあたしの強がり1つさえ分からないの?
意地張って自分に言い聞かせてたのに・・・
『新しい道を進むんだ』
って。

あたしはいろんな気持ちを抱えながら
それでもまだ甘えていた。
どうせ4月になれば
今までと何もかわらずに塾で過ごせる。
ほんの2週間くらいのお別れだって。
この先辛いことが待ってるなんて思いもしなかった。

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