□隣同士が一番自然
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授業終えた放課後。

机に向かってせっせと筆を走らす小さな二人の背中を見る。


時折どちらかが声をかけて、もう一人が応えて、またすぐに口を閉じるの繰り返し。



すっかり温くなってしまったお茶を喉に流し込めば、湯呑みの底が顔をだした。


今は勉強会の時間でなければ、自由時間てわけでもない。れっきとした学級委員長委員会の活動時間だ。

他の委員会と違ってイベント事がなければさして仕事はないので、大体が一年生の宿題と皆でお茶会の時間になるわけだ。


いつだっか勘右衛門が、学級委員長は他の忍たまの手本になるべきだから日頃それについて考えた方がいいと言っていた。



ちらりと目線を横にずらす。

壁に背を預けて静かに寝息をたてて微動だにしなくなってからどれくらい経っただろう。それほど時間は経ってないはずなのに、穏やかな空気が時間の流れに対しての認識を鈍くさせている。




勘右衛門のやつ、あの真面目な意見はどうしたものか。

これが忍たま達の手本になるべきだからとか言っていた奴だと思うと笑えてくるな。



さて、暇だしお茶でも煎れ直してくるか。

そう思い立って畳に置いた手に力を込めて立ち上がる。


しかしそれは肩にかかった重みで遮られた。

ずしりと右肩に感じる重みと体温は、考えるまでもなく隣で夢の世界に堕ちている勘右衛門のもので、そっと首を動かせば、完全に私に体を預けている。



「おい、勘右衛門……」

「………」


名前を呼んでも返ってくるのは規則正しい寝息だけで、緩やかに上下する肩の動きはすっかり深い眠りについてることの証だった。


「嘘だろ……」

お茶を煎れ直すどころか一切の動きを封じられてしまって、変に体に力が入る。


起こしてやろうかとも思ったけれど、昨夜五年生は実習だったし疲れているんだろう。

そう思うとむやみに体をよじることもできなくて、呼吸をするにも気を遣う。


動けなくなった私は、未だ教科書と睨めっこをしてる下級生二人の背中をただぼんやりと眺める仕事に移ることにした。

小さな背中の井桁模様を見つめていると、いつのまにか髪型が変わっていて、手に持っていたはずの筆も団子の串に変化していた。



これは夢なんだろうか。

目の前の二人は顔を見合わせて笑い合う。短い髪もゆらゆらふわふわ揺れている。


一人が横を向くと、その横顔を見て合点がいった。


勘右衛門だ。ならあれは一年の頃と私と勘右衛門。

学級委員長委員会の時間なのだろう。

他の時間なら雷蔵達もいるはずだから。



二人で過ごした時間は案外長かったんだな。

組は違えど五年間一緒に生活してきた仲間。

だけど委員会という括りは他の奴らとはまた違う時間を共有するものだから、何だかんだよく話す相手なんだと思う。



常に気を張っている私がこうして人の体温を感じながらのまどろみを心地好く感じるのだから、それが何よりの証拠だ。




いつの間にか映像が遮断された中で、遠くに声が聞こえた気がした。



『先輩達、仲良いね』

『どっちが後輩かわからないなこれじゃ』



仲が良い、そうか。


こうしているのがあまりに自然だったから、他の言葉で表す方法がわからなかった。




この場に勘右衛門がいなかったらきっと違和感が生まれて眠るなんて思いもしなかったろう。


この空間を手放したくないと強く思った。だけどそれは夢か現実かなんて、誰にもわからない。




隣同士が一番自然

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