□涙の笑顔
1ページ/1ページ

太陽みたいな色をしたあなたの髪が、夕日を反射していた。


きらきらと輝く髪とは反して、横顔は陰を帯びていたからすごく違和感を感じたんだ。



誰もいない四年は組の教室の窓際で、ぼんやりと外を見ているタカ丸さんを見つめる僕。

特に声をかけたわけじゃないけれど、タカ丸さんはいつのまにか僕の存在に気づいていたようだった。



いつもと変わらず柔らかに緩まる口元で笑みを作って、呟いた言葉はきっと独り言じゃないから。





「仲良いよねぇ、あの二人」


その"二人"が視線の先にいるんだろう。それを確かめるべくタカ丸さんの後ろから外を覗き込む。

そこでようやく理解できた。


同時に胸が苦しくなる。



池周りにある岩に腰掛けて談笑する二人とは、一つ先輩の竹谷先輩と…久々知先輩だった。


隣同士に座る二人は、何を話してるかは聞こえなかったけど特別な雰囲気は見てるだけで感じ取れる。




何気ない光景でも、この人には酷な状況だってことくらいわかる。



僕にも大分酷なんだけど。


「昨日ねー」

「…?」

「兵助君に言ったんだ」



急に言われたことに言葉を失った。

何を、だなんて聞かなくてもわかる。



どうしてそんな勇気が持てたんだろう。学年が違うといっても、タカ丸さんと久々知先輩は委員会が一緒だ。

ぎくしゃくするとは考えなかったんだろうか。




「ありがとう、なんて言われちゃった。兵助君優しいんだよねー」


あぁ、そうか。円満な終わりを迎えられたということだ。

振った相手に対して優しいだなんて、何だか面白くなかった。




「……さて、と。もうすぐご飯だよね。食堂行こうか」


急に立ち上がったタカ丸さんの表情が逆光で見えない。

明るい声音をしてはいるけど、微かに震えていたのを僕は聞き逃さなかった。




「タカ丸さん」


僕に背を向けて教室を出ようとするタカ丸さんの腕を掴んだ。





「そんな顔で、食堂行くつもりですか?」


そう言うと、高いところにある肩がびくっと揺れた。



そんな顔で、人前に出るというの?


そんなに、目を真っ赤にさせて。





「どうして我慢するんです?ここには、私とあなたしかいないんですよ」




いつも自然と周りに人が集まるあなただから、皆と同じ顔しか知らない。




だけどここには二人だけ


僕しか知らないあなたを、見せてくれたっていいじゃない。





「気持ちは嬉しいって、言ってくれたんだ」

「……」

「だけど、先輩であり後輩で、大事な委員会の仲間で、それ以上でも以下でもないから…」



小さくなる声に耳を傾けながらタカ丸さんの前に回る。

睫毛が涙で濡れているのに、僕に気づくと口元を緩ませて笑顔を作った。





「ごめん、て」

「………」



ヘラリと笑うその顔があまりに悲しくて、痛々しくて、掴んだ手に力を込めた。


そのまま抱きしめるなんて小心者の僕にはできなくて、空いたもう片方の手で流れる涙を拭った。


触れた指先が溢れた雫を吸い取る。あなたの悲しみも、僕が全部吸い取れたらいいのに。




「タカ丸さん」

「なに?綾部くん」

「今日の夜、部屋に遊びに行きます」

「え?」

「滝夜叉丸と、三木ヱ門を連れて。こういう時は一人でいるよりいいと思います」



嘘。本当は一人で涙を流してほしくなくて、少しでも時間を共有したい僕のわがまま。



「ありがとう。待ってるよ」




あぁ、久々知先輩に想いを告げた時のタカ丸さんの気持ちがわかった気がする。

好きな人の心の中に自分がいなくても、ありがとうと言われるだけで、許せてしまう。



好きな人を怨むなんて、惚れた側にはできないことなんだ。






「行こっか。もう大丈夫だから」



僕は、叶わない想いを告げる勇気なんてない。あなたみたいに強くはなれない臆病者。

だからあなたの背中を押す役回りでいいから、利用されてもいいから


この場所であなたの笑顔を見届けさせてください。




涙の笑顔
(私の想いには気づかないで)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ