SPX
□信頼と想い
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(ん・・・・)
身体が重い。
何だかとても窮屈に感じる。
ぼんやりと目を開けると見慣れた天井が見えた。
(ああ、そうか。昨日・・・)
スーツのままで寝てしまった自分に呆れつつ、ゆっくりと起き上がる。少し乱れたシャツを直しながら昨日までに起きた出来事を思い出した。
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重要な案件だった。
USA大統領の息子を守れとの指示。治安の悪い国への移動、その距離。まだ小さいターゲットをなだめながら外敵の把握。
いつも以上にハードで、アヤメにもかなりの無理をさせた。
現在の「X」には実際に動ける人間が俺とアヤメしかいない。李宝は腕はたつが基本情報操作に回っている。
他にもXの補佐としてメンバーは大勢いるが実際にSPとしての高い能力を持つのはアヤメだ。
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「やばいな、囲まれる」
「どうする?レン。このままだとやばいわ」
砂漠のように砂が舞い、すでに視界は遮断されている。建物は立っているが隙間隙間が大きすぎて身を隠す余裕がない。
(くっ・・・だから予定通りに車は一つで進めるべきだとあれほど!)
予定では大統領の乗る車に俺たちも乗り込むはずだった。車は何度も俺が点検し、異常もないことを確認していたのに。
直前になって定員オーバーだと新たな車を用意され、ターゲットと俺、アヤメがそちらの車に乗り込んだ。おかげで車はエンストを起こし、現在、敵に囲まれかけている。
「どこかで車を調達するしかない・・アヤメ見えるか?」
「待って。・・・・あるわ。距離、3.5。敵は4,5名隠れてるってとこね。ライフルで狙われるとやばいけど」
「すでにここにいることも危ないさ」
『大丈夫ですか?』
銃に弾を詰めながら、ターゲットに英語で話しかける。ターゲットはわけも分からないまま、震えていた。それもそのはずだ。まさかこんなほとんど装備のないままでこんな危険地帯に降りる予定はなかった。ライフジャケットは着ているものの、地雷でも踏もうものなら…。
「弾込め、完了。いくわ、レン。私が先頭きる」
「アヤメ…僕がリーダーだっていうのは分かってる?」
「リーダーだからこそターゲットに一番近くにいないとだめでしょ?」
そうやってにこやかに向けられるアヤメの顔は本当に頼りになる。凛々しい、たくましいなんて言葉を言ったら怒るだろうから言わないが。
「分かった。…李宝、現在の大統領の位置読めるか?」
『任せるある。…大統領はすでに空港に到着済。現在の場所からだと車で30分ってとこだね』
「30分か、ギリギリだな」
「次の会合、飛行機で渡らないとダメなんだもんね」
「しょうがないな、行くぞアヤメ」
「ラジャー!」
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「ふぅ…」
中途半端にかかったネクタイを外しながら洗面所に向かう。さっと冷たい水で顔を洗うとようやく目もさえてきた。
「ん?」
隣の事務所から話し声が聞こえる。アヤメと李宝がまた言い争っているようだ。
(昨日あれだけ無茶をしておいてもう起きてるのかアヤメは)
あの後、囮になって敵の弾丸をあびて何弾かはその身に受けていた。あの大量のライフル弾をたった2弾受けただけで終わったのはある意味奇跡…いや、アヤメの天性の身のこなしかもしれない。
それでも「X」のリーダーとして、アヤメに傷を負わせたこと、ターゲットをあそこまで危険に追い込んだことが許せない。
思わず、拳を握って洗面台をたたく。
アヤメの存在が頼りになりすぎて忘れかける。彼女は、女性だ。
仮にも自分は英国の血を引いているというのに…紳士にあるまじき行為じゃないのか。