最近ツイてねーなぁ。
12月に入ってから、ことごとく運に見放されてるとしか思えない。
クリスマスを目前に、高校入学してからすぐ付き合いだした彼女にフラれた。何がいけなかったのかよくわからないけど。まぁ、それは別に大したことでもない。あんまり好きでもなかったし。ただ当分そういうのはごめんだと思っただけだ。
他にも髪を染めた次の日に不良に絡まれたり、傘のない時に限って大雪に降られたり。
一つ一つは別段根にもつようなことでもないのはわかっているが…
こう積もってくると、俺にもそろそろ限界がある!と神様に溝うち食らわせたくなるってものだ。
あぁ、そうだ。
むしゃくしゃしてたんだ。
だから普段だったら絶対に通らないはずの帰り道を選んでみちゃったり。
こんな"変なもん"を見たりするんだ……
第1章
煩いほどの明かりを放つ街並みのイルミネーションを足早に通りすぎ、人混みを避けようと路地裏に入ったその時。
少年―野見山 郁斗―は異様な光景を目にした。
なんと全長がぱっと見150cmはあるであろう巨大なネズミが、西洋風の軍服を着てなにやら郁斗と同じ、17歳ぐらいの少年と争っているようなのだ。
「あっちに行け!溝鼠めっ」
何かの撮影だろうか?その割には少年とネズミの姿しか見当たらないのが気になるが。
郁斗はもともと好奇心の強い方である。だからとにかく面白そうだ、と電信柱の陰に潜み事の成り行きを見守ることにした。
「溝鼠だと…?貴様この王冠が目に入らぬか!」
「知らん!」
少年は腰にさしていた剣を取り出し、ネズミに向けて構える。
ネズミの影になってよく見えなかったが少年もまた奇妙な格好をしていた。そうあれは確か…
「くるみ割り人形だ!」
声に出してからしまった!と思った時にはもう遅く。
郁斗は少年とバッチリ目が合ってしまった。
「あっ!」
その一瞬の隙をついてネズミが少年に斬りかかる。
危ない!が言葉になるより先に、郁斗の体は動いていた。右手に持っていた学生カバンをネズミへと思いっきり投げつける。
ゴスッと鈍い音がして、気がつけばネズミはぶっ倒れていた。
ヤバい…!!
郁斗は咄嗟に身を翻して走り出した。
背後で制止の声をかける青年と気絶しているネズミに、内心で謝りながら。