お菓子な少年物語
□少年と不思議の国
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第2章
頭の下が暖かくて柔らかい。おかしいな、さっきまで寒かったはずなのに。
重たい瞼をあげながら郁斗は思った。
「あ、おはようございます」
そこにはハンスの顔がどアップであった。
どうやら俺は横になっているらしい。
状況がよく理解出来ず、銀糸の眩さに目を細める。
「……あーおまえってほんと、ロシアン人形みたいな顔してるよな」
「はぁ?僕がマトリョーシカに見えるんですか?眼科に行くことをオススメしますよ」
ハンスがご立腹だ。何故だ。誉めたつもりなのに。
「せっかく膝枕してあげたのに…あんなおデブさんと間違えるなんて」
「げっ」"膝枕"の単語に慌てて体を起こす。
「"げっ"ってなんです?"元気が有り余っているので苛めて下さい"の略ですか」
ハンスが顔を引きつらせる。
どんな略だ、と突っ込もうとして郁斗は固まった。
そこは今まで郁斗がいた所ではなかった。
辺り一面銀世界で、先ほどまでブランコや滑り台、家が建ち並んでいた場所に松が生えそびえているのだ。それが白模様に染められ、さながら神秘的な絵画に囲まれているかのようだ。空は不思議と落ち着く薄暗さでどこか現実味がなかった。
「何だよ、これ…」
「雪の松林です」
「何処だし」
「我らがお菓子の国の近くですね。襲われる心配はないのでご安心を。雪の精とは古くからの交友があるので」
「あぁ、そう」
叔父さんが聞いたら喜びそうだ。だが残念ながら郁斗はそこまでメルヘンボーイではない。ハンスの言葉を適当に受け流した。
「で、なんで俺はこんなとこにいんの?激しく帰りたいんだけど」
「実は貴方にお願いがありまして」
ハンスは立ち上がって自分と郁斗についた粉雪を払った。つられて郁斗も立つ。
「お願いって…恩返しなら本当にいらねーよ?別にそんなつもりで助けたんじゃねーし」
「違うんです、いや…違くはないんですけどね?折り入って頼みたいことがありまして。それが済んだらまとめてお祝い!みたいな」
「それ"恩返し"言わなくね?」
「まぁそう仰らずに。どうせ貴方一人では帰れないんですし、話しだけでも聞いて貰えませんか?」
いろいろ矛盾は感じたが話しを聞くぐらいならいっかと思ってしまうのだから、存外自分もお人好しなようだ。