毒リンゴの魔法
□第1章
1ページ/8ページ
あれから4年が過ぎ、いろいろあって白雪姫は深い深い森の奥7人の小人たちと小さな家で暮らしていた。
成長するにつれ益々綺麗になっていく白雪姫をよそに、小人たちは何一つ変わらないまま幼い子供のようだったので白雪姫は毎日大忙しだ。
「スリーピー、寝ながらご飯を食べないで!床に溢れてベタベタじゃない」
腰まで伸びた長くしなやかな髪を櫛でとかしながら白雪姫は怒鳴った。周りがあまりに騒がしいので叫ばないと声が届かないからだ。
「んーわかってるよぉ、パンはスプーンで食べるんだよねぇ」
スリーピーと呼ばれた小人は寝癖のついた頭をこくこくさせながら返事をする。
「違います、姫は寝ながらの食事についてと床に広がるシチューとパンの残骸について怒ったのです。あとパンはスプーンで食べるものではありません…って聞いてます?」
スリーピーの右隣に座る小人は眉をひそめて生真面目に言った。
「聞いてるよー、でももうお腹一杯だからぁ…むにゃ」
スリーピーは訳のわからないことを言うとパンを片手に眠ってしまった。
「眠り屋に何言っても無駄だよ、先生」
それにしても姫の作るシチューは美味いよなぁっ!とスリーピーの左隣に座る小人は笑った。
「私には"先生"ではなく"ドック"という名があると何度言えば単細胞な"ハッピー"にもわかって頂けるんですかね」
どう思います、ドーピー?と、ドックの向かい側で黙々とシチューを頬張る小人に訊ねる、が。
「…?」
首を傾げられて終わった。ドーピーは再びシチューを飲み始める。
「あはは!シカトされてやんの、ダサいぜ。先生はほんと、無駄なことが大好きだよな〜」
「なっ…!私は――」
「あぁ、もう!うるせぇーっ!」
ガッシャーン!
椅子を蹴り倒し机を思いっきり叩きながら赤い髪の小人が立ち上がった。
「わっ、ちょっと、グランピー!何するんですか!埃が…」
ゴホゴホとみんなが噎せるなか、くしゃみが止まらない小人がいた。
「クシュン!―ハッ、クシュン!ひ、びどいよ、グラン…ピ、クシュン!」
「あ、わりぃ」
周りの咳が止んでも永遠とくしゃみを続ける小人にグランピーは申し訳なさそうに謝った。
「やれやれ…朝から可哀想なスニージーです」
「全くだぜ!おこりんぼには困ったもんだよな」
「はぁ?もとはと言えばてめぇらのせいで…」
「あの、喧嘩しちゃだめだよ…」
再び暴れ出しそうなグランピーを、消え入りそうな声で一番背の
低い小人が制止した。
「んだよ、バッシュフル。俺が悪いってゆーのかっ?」
強くグランピーに訪ねられ、バッシュフルは顔を真っ赤にした。
「あの、だから…そうじゃなくてっ……」
耳まで真っ赤にすると終いには、こっち見ないでーっと帽子で顔を隠してしまった。
「あぁ?てめっ、自分から話し掛けといて無視するとはどういう了見だっ」
グランピーが帽子を取ろうと引っ張るのをドックが止めに入る。それをハッピーは楽しそうに煽って大爆笑する。残りの三人は完璧に自分の世界だ。
「…はぁ」
そんな光景をこの4年間ずっと見てきた白雪姫は心の底から溜め息を吐く。
一体いつまでこんな生活が続くのかな…。
みんなのことがどんなに好きでも白雪姫はそろそろこの暮らしに堪えられなくなっていた。
「…白雪姫」
ぼんやりしていたところに話しかけられてドキッとする。
見れば白雪姫の足元にちょこんと小人が立っていた。
「…っ、ドーピー!どうしたの?」
「これ」
ん。と見せられたのはすっかり食べ終わり空になったお皿たち。
「…美味しかった」
ドーピーはペコッとお辞儀をするとそれらをキッチンへと運んで行った。
その姿に白雪姫はジーンとくる。
こんなことでめげちゃダメだわ…彼らには行く宛のない私を匿って貰った恩があるんだし!
頑張らなくちゃ!
白雪姫は萎えたエプロンを着けると、未だ口論の真っ只中にいる小人たちを叱りに入った。
そうして今日もいつも通りの生活が始まり、終わる。
…かのようにこの時の白雪姫は考えていた。