お菓子な少年物語
□少年と出会い
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「叔父さん、俺今日すごいもん見ちゃった」
家に帰るとすぐ、冬休みを便乗して家に泊まりに来ている叔父さんに話しかけた。
叔父さんは父の弟で齢38にして一代ブームを巻き起こした、凄腕小説家だ。老若男女問わず楽しめる王道ファンタジーを主流に様々な本を執筆していて、郁斗は彼の織り成す世界も彼自身のことも大好きだった。
「それはアレか?空飛ぶ絨毯とか喋る剣とかそういう感じか」
そうでなければ興味なし、とでも言うように叔父さんは吹かしていた煙草の火を消した。
「惜しい!喋る巨大ネズミだったよ」
「それはお前アレだ…ミッk」
著作権ーっ!!
慌て叔父さんの口を塞ぐ。
「違くて!リアルにネズミだよ。王冠頭に乗っけてさ、変な格好で男の子ともめてたんだ」
郁斗は今見てきたことを詳しく説明した。叔父さんは黙って聞いてくれて、終わると「なるほど」と口を開けた。
「つまり郁斗はとっても貴重な経験をしたわけだ」
「珍しいことではあったけど、貴重って程ではねぇって。だいたいただのコスプレ野郎だったのかもしんねぇし」
というかそうだろう。あんなでっかいネズミが本物だったら猫も真っ青だ。
「なんだ郁斗、知らないのか?それは"ネズミの王様"でお菓子の国を乗っ取ろうとしてるんだ」
きっとその青年はお菓子の国の王子様だったんだろうよ。お前、良いことしたな。と頭を撫でてくる叔父さんに苦笑いで答える。
ほんと、そういうのが好きな人だ。年中メルヘンなことで脳ミソがいっぱいだからあんなに面白い本が書けるんだろうな。
この時の郁斗は叔父さんの話をその程度の認識しかしなかった。