□We are condemned to kill time: Thus we die bit by bit.
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「ねえ、ハイドアンドシークをしようよ!」
「かくれんぼのことか?」
「そっか、ジャパンではそう言うんだよねドモン。そのとおりさ!
きっとすっごくエキサイティングなゲームだと思うんだ!」
「わあ!いいねそれ、じゃあジャンケンでオニを決めよう。
マークもやるだろ?」
カズヤが、しゃがみ込んでアリんこの列を見ていた俺の顔を覗き込んで問いかける。
俺はその時驚いてバランスを崩しかけたが、足をついて転がらずにすんだ。
「え?ああ、うん…じゃあ俺もやろうかな」
「よーし!じゃあ決まりだね!
いくよ…ストーンシーザーペーパー、ゴー!」
結果はドモンの見事なストレート負けだった。
彼はありゃりゃ、と頭を掻いたが、ディランに早く目つむって100数えたら探すんだよ!と言われ、その辺に植えてある木に額をくっつけ目を手で覆い、1,2…と数え始めた。
「ほら早くいこう!土門は足がはやいから!」
「うー!やっぱりとってもエキサイティングだね!」
カズヤとディランがはしゃいでいるのを端目に、俺はどこに隠れればいいのか全く分からなかった。
はっきり言うと幼馴染のディランにサッカーを勧められるまでは、家の中で“おえかき”をしているような子供だったので、この手のゲームは苦手だった。
とりあえず2人とも同じ方向に向かっていくので、俺も流れで着いていった。
「じゃあここに隠れよう!
ここなら土門は気付かないんじゃないかな」
「うっ…」
カズヤが見つけたのは大きな木の根元にある、暗くて狭い穴だった。
「ここならみつからなそうだね」
俺がカズヤに便乗して言う最中、ディランは青い顔をしていた。
俺はそういえば、とディランの恐怖症のことを思い出し、尋ねる。
「そういえば、ディランは暗いところと、狭いところが嫌いだったよね?」
と、だがディランの子供ながらのプライドが先に立ち、彼は強がったまま大きな木の穴に入り込んだのだ。
子供3人が入ってもまだウサギくらいなら入るくらい。
だけど、幼少のトラウマを刺激するには十分だったようだ。
「――…100!もういいかーい!」
「「もういーよー!」
「お、おっけーさ!」
ドモンの走る音が遠くで聞こえ、俺たちは息をひそめ見つからないことに全力をつくす。
しばらくしてディランが横でふるえはじめ、ほぼ同時に俺とカズヤが気づいた。
「大丈夫?今から場所かえようか」
「ははっ…!何を言ってるんだいカズヤ…?
ミーは全然大丈夫さ!」
「ディランはウソがへただね。ほら、服、服、掴んでるよ。
ウソをつくと服を掴むのは癖なんだね。
ハイドアンドシークは楽しくないか」
俺はその時にディランが嘘をつくとき、不安が募ったときに服を掴むという癖に気付いた。
でも、カズヤには俺の癖がばれていたようだ。
カズヤにはすぐに見破られてしまった。…今も昔も、彼の観察眼は一般人よりも秀でているよ。
「ウソだなマーク。
ディランは服をつかむけど、マークは耳をいじるよね。
わかりやすいなあ、2人共」
「…うーん、カズヤにウソはつけないね…。
早くドモン見つけてくれないかな、そろそろギブしたくなってきたよ…」
「ハハハ、そうだな」
「あ、ドモンが来た!」
早く見つけて、という割にはふっと息を潜めてドモンの膝から下を3人で見つめていた。
それと同時にたったったっ、と子供の足音がして、ドモンの傍で「あっ!」と女の子の悲鳴を上げ、立ち止まったのが分かった。
その時、俺は声だけしか分からなかったが、一番前にいたディランには何があったのかちゃんと分かったようで、焦ったように木の穴から飛び出た。
後からわかったのだが、女の子はヘリウム入りの風船を手放してしまったらしい。
ディランはドモンより早く気づき、木から飛び出た。と、そういうことだったのだ。
もう随分昔で、どの風船がどうなったかは、もう覚えていない。
その後どうなったのかも、忘れてしまったけど――。
We are condemned to kill time: Thus we die bit by bit.
「私たちは時間を抹殺することを運命づけられている。こうして、少しずつ死んでいくのだ。」
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