Novel
□ほっとするのは多分
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彼は遠慮がちに言った。先の事件のことで、紫信を気づかってくれているのだろう。
そういった優しさも、普段の頼りなさも、好きだ。
かつての、彼という存在を失うかもしれない、そんな不安も、ない。
自分が、彼を好きだと知っているから。
「しの の傍から、離れちゃ駄目よ」
それでもつい、縋る想いを口にしてしまう。
口にしてから、少し顔が熱くなる。
才蔵は優しく笑った。
安心する、笑顔。
「私はいつも、お傍に居ます」
知ってる。けど、言ってくれるのが嬉しい。
「お手を」
そっと差し出した手を、才蔵は優しく包んだ。
安心する、温もり。
なんでこんなに、安心するんだろう。
なんでこんなに、ほっとするんだろう。
そんなすぐには、わからないけど、
それはきっと、いつかわかる。