小春日和
□09
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ピピピピピ…。
由梨愛用の目覚まし時計が、3回目のスヌーズで5時45分を告げる。
その音に一応目が覚めたのだが、睡魔には勝てなかった。布団の中は春真っ盛り。
枕に抱きつき、瞼を再び閉じようとした時、ふと障子越しに沙代が部屋の前に立っているのが見えた。
寒い廊下にじっと突っ立っている。障子からの陰で、まだ寝巻だった事が分かった。
いつもはちゃんと身なりを整えてから部屋を出るはずの沙代が、髪も結わず、着替えもせず…。これは何かあったに違いない。
由梨「…どうした?」
気になり、上半身だけ体を起こし、声を掛けてみた。
沙代「!!」
沙代は驚き、慌ててこの部屋の障子を開け、人差し指を口元に当てながら「静かに!!」とジェスチャーで伝えた。
その異様な様子に逆に興味がわき、いよいよ起きる気になった。
なるほど、目的はそっちか。
由梨の向かいの部屋は、ジミーこと山崎のいる部屋だった。
しかし、何やら声が聞こえる。話し声だ。割と大きく、こっちまで聞こえた。
一方はジミー、もう一方は…土方さんだ。
この二人の会話といえば、業務上の会話が主だ。怒声もよく聞く。
だが、そんな日常茶飯事な会話に、沙代がわざわざ障子の小さな隙間から覗き聞くはずがない。
沙代をそこまでさせるのだから、自分も聞いて損は無い!!
実は自称真選組写真部部長、由梨は七つ道具デジカメを右手に装備し、そろそろと沙代の隣へと急ぐ。
しかし、思い立ったらすぐに行動してしまう由梨の性質が、今回は仇になった。
由梨「こ……これは…」
そこは、目を疑う光景だった。いや、疑いたくなる光景。
「副長…」「山崎…」
二人の周りには、甘い香りの薔薇が咲き乱れている様だった。
カメラを構える手が震えているのがよく分かる。
沙代の方を見れば、やはり額に汗を浮かべ震えていた。完全に目が逝っている。
沙代「ど…どうして……」
リア充全快の乙女山崎を見て、失神直前の彼女。
合わないピントの中の二人は、普段見せない幸せそうな笑顔。
由梨「これは……愛のキっキキキキキkkk」
世の中には知らない方が良い事もある、とも言いたそうなドヤ顔で、土方がこちらを見つめた。
由梨「そんなっ…土方さっ………」
いいいぃぃぃやゃぁぁあああぁぁぁぁ―――…