小春日和

□09
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ピピピピピ…。


由梨愛用の目覚まし時計が、3回目のスヌーズで5時45分を告げる。

その音に一応目が覚めたのだが、睡魔には勝てなかった。布団の中は春真っ盛り。

由梨「夢か………」

安心したように呟く由梨。しかし、ゆっくり実感している暇などないのだ。

真選組女中として、朝飯一食作るだけでも骨が折れるほど大変。それは由梨自身一番よく分かっている。
しかもおかわり分も作っておかなければ、隊士たちの非難の的になるから恐い。

由梨「うー…寒いー…」

ただでさえ15分遅れている。
時刻通りに朝御飯を食さなければならない、というのがモットーの隊士たちにとって、
遅れることも減点の対象となるのだ。

面倒くさい、と心の底から思っていても、現実から目を背けることはできない。
それがこの世の理なのだ。

眠い体を起こし、欠伸を連発しながら寝巻きから仕事着に着替える。

気合いを入れ、いつもの仕事場、台所へ向かった。
調理場へ足を踏み入れたその時。

由梨「!?」

聞きなれた音。

あのでかい体で、ものっそい早く歩き回るあの黒い虫の音。

由梨「とうとう出やがったな、奴め…
台所は綺麗にするよう心がけてたのに…」

音だけするが、姿は見えない。

近くにあったスリッパを構え、今かと現れるのを待った。

由梨「…あれか……」

見つけた物は、生ゴミの山。
それは赤いキャップの悪魔だった。

腐臭を放ち、それが奴等の的となっていた。

由梨「マヨ摂取後はちゃんと捨てろっつったのにあの無神経野郎……
Gは1匹いたら100匹いるんだぞ!!
100匹も手に負えねーよ!!実は虫苦手だったんだぞ!!うあぁぁぁ!!」

逃げたい。超逃げたい。
あのゾワゾワァっとしたのが100匹も自分にむかってうああああああああ

折れそうになる心を必死で阻止し、黒い奴に向ける神経をより鋭くした。
仕留めてやる。と、小さな闘志を燃やしながら。

由梨「奴め…どこだ……」

抜き足差し足で、音をたてないように奴を探す。

台所の小さな鏡に、黒いモノが写る。

由梨「でたなっ………!…」

その鏡に写ったのは、

由梨「ぎ………」

世間一般の『G』としては、でかすぎた。
由梨自身の身長をも、ゆうに越している。

由梨「ぎゃあああああ!!!」

全力で土下座するが、Gに効くはずもなく。
スリッパも虚しく、手から落ちる音が響いた。

由梨「ぎゃああぁぁぁああああ!!!ごめんなさい!!ごめんなさいぃぃいい!!!」


いぃぃぃやあぁぁぁあああああああ―――…
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