短編

□melt together ―深く深く…―
1ページ/3ページ

これは随分昔、まだ世が戦国時代と呼ばれていた頃の話。
夜行が羽衣狐と出会ったばかりの話……。



「紅いなぁ…。」

夜行は自分の手を見て呟いた。その手は血で染まっている。そして夜行の足元には、いくつもの妖の死体が転っている。しかし、当の本人はまるで絵画でも見た感想のように呑気に呟いているのだった。

「ほぅ…おぬし、なかなかよのぅ」
「?」

ふと、そんな夜行に後から声を掛ける者がいた。それに夜行は振り返る。

「…何だ、あんた。」

それは少女だった。しかしどうも少女らしくないと夜行は感じる。

「妾は羽衣狐。どうじゃ、妾と共に来ぬか?おぬしの悪いようにはせん。」

羽衣狐と名乗った少女は、ニッコリと夜行に笑いかける。それに夜行も笑い返す。

「やだね。」
「…ほぅ。何故じゃ?」

羽衣狐は目を細めるが、夜行は笑いながら続ける。

「俺ぁもう自由なんだ。…もう誰にも縛られねぇよ。」

そう言った夜行の顔は、笑っているのにどこか寂しげに見えた。




「んぉ?」

夜行は目を覚ます。

「…フッ。随分懐かしい夢を見たもんだ。」
「ほぅ、どんな夢じゃったのじゃ?」
「!」

夜行は声のした方を向く。てっきり自分一人だと思っていたので驚いた。そこにいたのは、まるで夢に出てきた少女が大きくなったような…

「何だよ、ずっと見てたのか?趣味悪ぃなぁ…狐?」
「今来たばかりじゃ。それに、おぬしに言われとうない。」

羽衣狐はそのまま夜行に近寄る。そして夜行の顔を覗き込んだ。

「(あれから少しか経ってねぇが、見た目が随分変わったもんだ。ま、人間の依代だしな。)」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ