三国
□桜に溺れる
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辺りは既に日が暮れた。
頼りの月明かりは存在を隠すように
夜霧に身を包んでいた。
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さわり、と冬の刺を無くした
生暖かい風が頬を撫でる。
張る独特の青臭さと気だるさ。
そんな中、姜維はゆっくり歩を進めた。
嫌な、夢を見た。
生温い春の夜風に
当てられたのかもしれない。
内容も覚えていないそれに恐怖を覚え、
追われるようにただ足を進める。
一陣の風が吹いた。
目の前を何かが掠める。
「………桜?」
薄桃の1枚の花弁を手に振り仰ぐと
朧月の下、
そこには
1輪だけ開花し、散りゆく桜の姿があった。
早咲き過ぎるそれに手を伸ばしたその時、
「お1人で夜桜見物ですか? ##NAME1##殿」
「…ッ、##NAME1##、殿!?」
思わず肩を跳ねさせ、振り向いた。
何故ここに、と
問うても彼女はただ微笑うばかり。
「何故?は止めて、
宜しければお付き合いいただけませんか?」
そう言って彼女は
片手にある徳利を持ちあげた。
早咲きの桜の幹に腰を降ろし、
他愛もない話をする。
初めて、時間の流れを悔やんだ。
次第にお互いの口数が減り、
仕舞いには盃を覗きこむ。
「…##NAME1##殿、大丈夫ですか?」
「うん?…少し、飲みすぎた…かな?」
「では、そろそろ部屋に「待って!!」
「!?」
急に飛び付かれ、
支えが効かずに後方へ倒れる。
目を開いた時には、
早咲きの1輪を背景に
##NAME1##が私の上に馬乗りになっていた。
「姜維は覚えて…ないの?」
「―っ!!」
その一言で##NAME1##の意志が読み取れた。
「言ったじゃない…
10年後、この桜の下で絶対を誓うっ て……」
「##NAME1##…ど、」
大粒の涙を流していても、
彼女が美しいと思えた。
その事が、幸福に思えた。
「約束、忘れちゃったの!?
姜維どうして、どうして…!!」
「##NAME1##っ…!!」
次の言葉を出させないと、
出して欲しくはないと、
彼女の口を己のそれで塞いだ。
桜におぼれる
「帰ってこれない戦になんか、
出ないで。」