Secondry Fiction

□君と、彼の中の君。
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二回目の桐皇戦で勝利して
少したった頃。
僕は青峰くんにキスをされた。


中学時代は
部活帰りとかにしょっちゅうやってた行為なのに、
久しぶりというだけで
初めてみたいにドキドキした。


部活帰りにぶらぶらしていたら
青峰くんに会った。
僕は挨拶だけして帰るつもりだったけど、彼はそうじゃないみたいだった。


「いいじゃねーか、たまには。」
そんなふうに誘う青峰くんは
中学時代にも見たことがない。


珍しいなぁと思いながら
彼についていった。


彼の口からでてくる話は
とるにたらないものばかりで、
早急な話や
重要な話はなかった



あたりはとっぷり日が暮れて
真っ暗になった。
大通りを一本入ると、
人気のない路地だ。


「青峰くん、話したいこと、全部話してください。」


「あ、まぁな。いろいろとな、いろいろと。」


彼は決まり悪そうな顔をして
はぐらかそうとする。
僕はそれがもどかしい。


「今は、昔より距離があるかもしれません。けど、それでも僕は青峰くんが心配です。何か困っているようなら相談してほしいし、頼りないかもしれないけど、助けになりたいと思います。だから…」


試合が終わってからずっと言いたかった言葉だった。
前のような関係にはなれないけど、
それでも僕のできる範囲のことを彼にしてあげたい気持ちがあった。


彼はしばらくじっと僕を見つめて、
少しかがみこむ。


僕と同じ目線になる。


この感じ、なつかしい。


「俺も、おまえが………心配だ。」


そして、
いつも彼はなんの断りもないまま
僕にキスをする。


こちらの心の準備はお構いなしに。


だから、
僕は彼の唇が僕の唇にふれてから
目を閉じる。


それがいつも。


もう二度とないと思ったいつも。


唇を塞がれているから、
肯定の言葉を言うことができない。
自分から積極的なアクションを
起こすことも僕には無理。


このやり場のない気持ちを
どうにか伝えるために
僕は青峰くんの服をつかんだ。


幸いにも彼にはそれで伝わったらしく、
彼の舌が唇をわってが入ってくる。


それに自分の舌を絡めようと努力するけど、
彼は控えめなぼくの舌づかいに満足できないらしく、
もっともっとと
左手を僕の後頭部にあてがい、
口づけを深くする。


僕にはもうすがるものがないので、
青峰くんになすがままになって、
ただ彼の服をギュッとにぎることしかできない。


僕の感じている思いと同じ思いを
青峰くんも感じていてほしい。


今の僕はもったいないくらいに
幸せなんだから。





自転車の近づいてくる音がして、
僕はやっと長いキスから解放される。


「悪かったな。」


青峰くんが
そう言ったきりで僕たちは
それぞれに別れた。










「昨日、青峰と会ったのか?」


次の日
学校に行くと火神くんはそう問いかけてきた。


いつものようにぶっきらぼうなのに、
その声はどこか悲しげに聞こえた。


それは、
僕の心にある罪悪感のせいかもしれない。


「はい。話があるみたいだったんですけど、全部世間話でした。」


「そうか…。」


火神くんはそれだけ言って去ろうとした。


僕の青峰くんへの思いを見破りながら。


彼のこらえきれなかった
悲しそうな顔を見て
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。



その日の夜
僕は火神くん家に行って
彼にキスをしてもらった。


こんなことで、
消えるはずもない。


つぐないになるはずもない。


けれど、
僕は彼を求めてしまう。


彼がとても似ているから…。


僕ははじめて
自分から舌をからませにいった。


火神くんへの思いを、
青峰くんへの思いに塗りかさねて消してしまおうとした。



火神くんは僕の想定外の積極的態度に
動揺していた。


それでも、
左手をぼくの後頭部にあてがい、
ますますキスを深くしようとする。


その仕草が、
同じだと思って
哀しくて切なくなる。


僕は、
今、
君と幸せになりたかった。

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