Secondry Fiction

□夏とハルヒとポニーテール
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容赦なく照りつける太陽。ダイビングできそうな真っ青な海。



夏だ。



無機的な巨大人工物は、
立体的に空間をきりとっている。

俺たちを俗世間から切り離しているようだ。

足元のアスファルトは、
バーベキューの鉄板のようだ。

その下を、
大きな低温を響かせて
トラックや乗用車、
バイクが通り過ぎていく。


俺たちに見向きもせず。
それぞれの目的地に向かっていく。



暑い。



開襟した首筋に汗がすべり落ちた。

歩道橋の階段を上り終えたばかりで、
暑さのせいか、
余計に体力を消耗した。

俺は暑さで、
くらくらした。

前をきびきび歩くアイツには追い付けない。



黙っていれば、
それなり以上なんだ。



半袖からはみ出した
白い腕が、
俺にはまぶしくて。

「キョン遅い!!
全くだらしないわね」

俺はおまえみたいな怪人じゃないからな。
おまえみたいな奴は、
悪の怪人に誘拐されて改造でもされたに違いないんだ。

「たく、こう暑いと、
イライラしてしょうがないのよ。」

そのイライラを俺にぶつけるのは、はた迷惑と言うものだ。



せみの声がやかましい。



指に絡ませたコンビニの袋からペットボトルを取り出して水分補給。

オアシスだ。

「あ、団長に黙って何飲んでんのよ」

「これは俺が俺の為に俺の金で買ったんだ。
おまえにつべこべ言われる筋合いは1ミクロンたりともない。」

「こーゆーのは、
普通団長が一番先に飲むの!」

「さっきアイス買ってやっただろうが!」

コンビニで、偶然団長に会った場合、アイスをおごるという団の決まりがあるらしい。

そんな理不尽な団則は、
ハルヒの中でしか通用しないものであって欲しい。

そうは言っても、
俺は買ってしまったわけだが…。

「これはこれ、
それはそれなの!!」

何たるジャイアニズム。

しょうがない。

自ら地球を回すような奴だからな。

……洒落にならない。



何か餌付けしないと黙らなそうだ。

しかし最早
俺のものになったサイダーをあげる気にもなれない。
仕方なく、
コンビニの袋の中に入っていた最後の一つをハルヒに投げる。

俺が食べる分だったアイスは、ハルヒの手の中で
おとなしくなった。

「やる。」

大人げないが、
少し不貞腐れた色が出てしまったかもしれない。

別に本気で怒ってる訳じゃない。

けど、
ハルヒに
世の中は
そんな甘いもんじゃない
って教えてやるのも、
何と言うか……
団員としての
務めであってだな……。















困らせたい、
訳じゃない。

不貞腐れた顔もなかなか、なんて言う訳ないだろ。















「キョン、私のこと嫌いになった?」
















それはか細い声だった。

騒音で訴えられてもおかしくない奴が、
消え入りそうな声でつぶやいた。

普段の長門の呟きが、
大声に聞こえるほどに。

















それからそいつは、
ゆっくり袋を破って、
アイスは取り出さないで
そのまま持って俺の方に近づいてきた。

そして、
俺にアイスを突っ返した。

「そんなに食べたかったなんて、あんたも大人げないわね!!はい、返すわよ。団長が団員を労るのは当然だもの。」





ハルヒはつかつか歩き始めた。
もとのように。
かげろうのせいで、
団長の小さい背中がゆらいで見えた。





下を通る車の騒音が、
耳の奥でこだました。





もっとお互いに
素直になれれば、
ベストな距離に
居られるんじゃないか?





「おい、ハルヒ!!」

そのまま歩いて行こうとするハルヒに早足で近づいて、手を取った。

「俺、別にアイスいらん。」

さっきのアイスを手渡した。

「サイダーのがいいか?」

「バカキョン!
のどが渇いたのよ!!」














夏だ。













歩道橋を降りながら、
ハルヒがサイダーを飲み干す。

すでに
俺が飲んでいたとはいえ、いっき飲みはないだろう…。

こんな男まさりが
ハルヒであって、
俺はそれがハルヒに似合っていると思う。










「来年の夏こそは、
ポニテにしろよ。」

俺がぼそっと
つぶやいたのを。










あいつの反抗的な目ほど、俺の人生を面白くさせるものはないのだろう。


















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