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□病室の雨
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病室の雨







冷たい雨が降っている。


けれど、俺のところまで、
雨は届かない。


病室の暖かさは異常。


冷たいのは、
雨のふりかかる窓だけ。













小雨が降るなか部活やったこともあつた。


帰り道にいきなり夕立がきて、
駅までダッシュしたこともあった。


雨は冷たくて、
濡れるから嫌だ。














けど、
こう隔離されると、
雨でさへ恋しくなってしまう。










「幸村、すまん。返事がなかったので、居ないものだと。」



雨に濡れた真田がやってきた。



「あ、ごめん。ぼーっとしてて。」


俺は真田の上着についた水滴をタオルで拭いた。
そうまでしないと、
俺は雨に触れることができないから。


「すまん。
傘を忘れてしまって。」


「寒かったろう。この時期の雨は。」

「幸村、おまえが濡れてしまうぞ。」

「風邪ひかれたら困る。」


真田はだまって俺に大人しく拭かれていた。
それは大人しい大型犬のようだった。













真田は関東で青学に負けた。
だから、黙っている。













「具合はどうだ?」


「…。悪くないよ。
だからと言って良くなってる訳でもないけど。」


俺は真田が答えるのを困るように言葉を撰んだ。


真田は素直にもやはり
何を言っていいか分からないようだ。












真田とテニスすることが当たり前だった。

それが不可能になったのは、
決して誰のせいでもなくて。

けれど、俺は又真田とテニスがしたくて。

できないことにただ単純にイライラしている。

真田が俺のイライラを受け止めることしかできないと知りながら。





俺はひどい。















「ねえ、俺は。」


真田の肩にしがみついた。
俺に指先は真っ白になる。


「真田とのテニスが楽しかった。」


「ゆ、幸村。どうした?」


「俺は……、俺はこんな所で終わってしまう自分が悔しいけど、」

「落ち着け、幸村!!」

「真田とのテニスをまだあきらめきれなくて。もうできないのに。」

「幸村!!」


真田があまりに大きな声で怒鳴るものだから、
俺は怖じ気づいて話すのをやめてしまった。


気まずい沈黙が流れて、
自分で怒鳴ったくせに真田は
申し訳なさそうな顔をして、
目を泳がすばかりだ。


コンコン。


「幸村君、ちょっといいかしら?
大丈夫?」


騒ぎを聞き付けた看護婦さんが、
心配そうに俺の部屋に入ってきた。


俺は真田の肩を慌てて離したけど、
俺達が言い争ってたのは
隠しきれない。


「どう?何か変わりは?
顔色が悪いから、
少し休んだ方がいいと思う。」


「大丈夫です。」


「幸村、俺はこれで失礼する。
少し休め。」


真田はそれだけ言って無責任にも出ていった。


俺は看護婦さんに心配かけるのも悪くて、ベッドで寝たふりをすることにした。


俺はおかしくなってしまったのだろうか。


いっそ、
おかしくなっちゃえば、
楽なのかもしれない。


真田のいた所にはまだ雨のしずくが残っていて、


俺が流すここにきて何度かの涙は、
真田には届かなくて、

届いていても真田が困った顔をするだけだと思う。

だから、真田にふりかかる雨でさへ
うらやましかった。
 

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