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□独り
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独り









幸村部長が
部活に戻って一週間。



俺は首筋の汗をぬぐう。


何度吹いても
炎天下ではすぐに
汗がにじんでくる。


ぬぐってもなんとなく
ベタついているようで
タオルでこすってしまう。


少しヒリヒリしてきたので
止めた。


今は部活の昼休みで
みんな水分補給をしたあと
暑さと疲れで
あまり食欲がないらしい。


弁当をノロノロ食べたり、
食べないでスポーツドリンクばかり
飲んだり、
日陰で昼寝したり。


バテている。
夏に溶かされたみたいだ。


そんな中あいつらは
バカみたいにまだ打ち合ってる。


「真田、
少しバテてきたんじゃないか?」


「幸村、
やはり病み上がりでは
全開にはなれんようだな。」


「俺の全開を引き出してごらんよ。」


「望む所だ。」


バカじゃないか?


あれだけ午前練習やっといて
飯くったあとに
あんだけ動くって


バケモンか。


コートのでボールが二人の間を
行き来する音は規則的で
メトロノームのようだ。


うざったい。















そもそもテニスって
そんな楽しいもんなのか?


球を追っかけて、
相手のコートに
より多く球を打ったほうの
勝ち。
ただそれだけのことに…。


俺は打倒バケモンを目指してる。


ムカつくから。
強くなりたいから。


それだけ…


きっとそれだけ…。


俺も相当なバカじゃないか?
















「弦一郎たちは元気たな。」


俺が腰かけている芝生の横に
三匹目のバケモンがやってきた。


「元気っすね。」


「赤也も交ざって
くればいいだろう。
そんなふてくされた目
をしてるなら。」


俺はこいつが
一番嫌いだ。


「ふてくされてなんか
いないっすよ……
と、おまえは言う。」


この面倒な絡みかたが嫌なんだよ。


なんで
俺の気持ちがわかるんだ。


口に出して欲しくない
気持ちだってあるのに。



「柳先輩こそ、
一緒にやってくれば
いいじゃないすか。」


「俺はいい。
ちゃんと休憩しないと
後が辛いからな。」


嘘だ。
午前練習でバテるような
やつじゃない。












俺は知ってる。


あんたのキモチ。















「弦一郎は精一が戻って、
ますますはりきってるな。」


「恥ずかしくないんすかね。
あんだけ優勝トロフィーを
勝ち取って、
おまえを待つとか言ってたのに。」


「常勝の掟こそ破ったが、
弦一郎がベストを尽くしたことも事実だ。」


ベストを尽くしたで、
済まされる話なら苦労しねーわ。


なんて、
所詮俺も負けた訳だから言えない。


たく、
こいつと居ると本当にイライラする。


俺はこいつと居たくなくて、
こいつだって、
本当はここに居たくないはずだ。


化物ラリーの勢いが衰えることはなくて、
それを見つめる孤独な化物の眼差しが
切ないのも変わらない。


部長と副部長には特別な絆がある。


幼馴染みの一言で済ませれば
それまでだけど。


それは二人の周りに誰もよせつけなくて。


本人達は多分気づいてないのだろう。
自分達のなかに誰も入れないことに。



世間は残酷にも
勝手に三強なんて呼び方するのに。














柳先輩は多分一番二人の絆に敏感で、
自分を守るために
二人から一定の距離を保っている。


そして、結局自分が傷ついてる。








だから、俺は柳先輩が嫌い。














自分だけが一人だと思いやがって。



中途半端に俺に関わろうとするなよ。





俺が辛いよ…。
















本当にかすかな風が吹いて
それは、柳先輩の髪を揺らしただけだった。


もうすぐ午後練が始まる。

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