dream

□ばれんたいん!
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「ねーね、おこづかい、ちょうだい?」


「何に使うの?」


「な、ないしょ!!」


「………」


嘘を言わない辺り素直だな、と思ったのは何も自分だけじゃないだろうが、残念ながら今は家にいるのは自分と恭弥だけだ。
母がいないため、何か買う物が必要な場合は姉にお金を貰うように言われているらしい恭弥が「おこづかいちょうだい!」と言うのは珍しくなかった。
だが、理由を聞くと「おかしをかうの!」など、ちゃんと理由を言う。
今回は珍しいパターンだが、嘘も言い訳をせずに求める所は好感が持てた。


「良いよ、どれくらい?」


「えっ、えーっと……」


「……500円玉二枚で良い?」


「う、うん!」


まだ恭弥はお札の値は理解していないため硬貨二枚の表現をさせて渡す。

…まぁ、男の子だから理由は良いか。

なんて、幼児の恭弥相手に思った姉だった。





その次の日、恭弥はお小遣いを首から下げるひよこのお財布に入れてデパートに入った。
目的は一つだから、オモチャ売り場にも絵本にも誘惑されずに真っ直ぐ目的地まで歩く。


「あった…!」


女の子が沢山いる全体的に淡いピンクに染められたコーナー。
甘い匂いがするそこは、バレンタインと書かれたチョコレート売り場だった。


「よろこんでくれるかな…」


笑顔を浮かべて喜ぶ姉を想像して、恭弥は顔を染めてはにかんだ。

その日を恭弥が知ったのは偶然だった。

同じ幼稚園の女の子が、一番好きな人にチョコレートを送って告白が許される日らしいバレンタインデーの事を話していた。
その人に送るのを忘れたら嫌らわれてしまうのだ、とも聞いた。
それを聞いて一番好きな人である姉に渡して気持ちを伝えなければ、と恭弥が思わないはずがない。


「ねーね、どれがすきかな?」


多種多様のチョコレートを眺めながら恭弥は唸った。
どれも美味しそうな造りをしているのだが、数字が四つ並んだ値段を見た瞬間に肩を落とす。
三桁の値段のものになると、どうしても隣に並ぶ物とは劣っている気がして選ぶ気になれない。


「あ」


そんな時、目に入ったのは『一番好きな人には手作りチョコレートを』なんて書かれた雑誌だった。
漢字は理解出来ないが、ルビが振ってあるため恭弥でも理解する事が出来て目が付いたのだ。


「……てづくり」


自分が気に入るチョコレートが無ければ、自分で作れば良いじゃないか。

決意したら後の行動は早かった。
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