グウェアニ部屋2
□母心
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母心 1
このところぽかぽか陽気の続く眞魔国だったが‥‥なぜかここ血盟城の人々の心は暗雲が垂れ込めていた
今日は久しぶりに執務室にほぼ全員が顔をそろえていた。
このところ‥とある事情からこの部屋‥‥というよりある人物のそばに近寄るのを控える者が多かったせいで、なかなかこのように集まることが出来なかったのだ。
今日はどうしても顔をそろえて話し合わねばならないこともあって、重い心を引きずって皆仕方がなく集まっていた。
この部屋にはユーリ・ヴォルフラム・ギュンターそしてグウェンダルがいた。
「コンラートはどうした?」
不機嫌そうに眉間の皺を深くしてグウェンダルが尋ねたが、誰もまともな答えを出せる者はいなかった。
今日は朝から誰もコンラートの姿を見ていないのである。
「市内視察にでも行っているのでしょうか‥‥探してまいりましょうか兄上?」
「いや‥‥そのうち来るだろう‥‥時間が惜しい。先に始めていよう。」
「いいの?グウェン?」
「しつこいぞ。私が良いといったのだ。」
ザクザクっ!!とばかりに青く澄んだ瞳から鋭い視線がユーリに刺さりまくった。
《ひえ〜!!今日のグウェンはかなり機嫌悪いぞ!!やっぱりあのことが原因かな?》
じろりと絶対零度の視線に睨みつけられてユーリ陛下フリーズ状態。
ちなみにあのこと‥‥とは‥‥このところコンラートとアニシナが急接近していることである。
それだけでなく意外な取り合わせに最初は度肝を抜かれて皆が唖然としたあと、グウェンダルがそのことを知ったらどうなると慌てだし‥‥さらにそれが知られたとなるとグウェンダルのそばにいるのが恐ろしくなって皆こぞって逃げ出していた‥‥までの経緯すべてを含むらしい。
グウェンダルにとってはコンラートにアニシナとの親密ぶりを見せ付けられた上に、周り者が何故か仕事を放り出して逃げてしまい、仕方が無く一人無駄に広い執務室で黙々と山のように溜まった仕事をする羽目になっているのである。一部己のせいもあるのだが、なおさら機嫌悪くなるのは致し方ないところでであろう。
とそのとき‥‥執務室の扉が開き‥‥慌てたような声と共にグレタが入ってきた。
「コンラートなら大広間にいたよ!アニシナと一緒に♪」
「ぐっ‥‥グレタっ!」
可愛らしいグレタの登場なのに‥‥何故かその一声で皆一様に固まってしまった。
そしてグウェンダルの眉間の皺がくいっと深まった。
「コンラートは城内にいるのか?大事な会議があると伝えてあったはずだが‥‥。」
案外冷静な対応である。
《なんか‥‥険しい顔だけど取り乱さずに冷静にしているグウェンダルが‥‥逆に異様に恐ろしいんだけど‥‥。》
《ユーリ!また兄上に叱られるぞ!余計なことを言うな!》
《了解!ヴォルフラム!》
しかし、グレタはそのあたりの大人の事情を知らない。考えることも言うこともストレートだ。
「うん。なんか二人で抱き合ってた!グウェン!こんなところで会議なんかしてる場合じゃないんじゃないの?」
「ぐふっ!!」
「だ‥抱き合うって‥‥。」
「なっ‥なんですと!!朝からこの血盟城でそんな破廉恥な!!コンラートの師として私は‥‥。」
更に追いうち‥‥。
「早くしないと手に手を取り合ってベアトリスのお父様とお母様のように駆け落ちしちゃうよ!!」
「わーわおーわーおー!!グーレター!!それ以上はぁ〜!!」
「どうしたの?変なユーリ?」
奇声を発してグレタの口を塞いたユーリは慌てて耳元に囁いた。
《しぃーっ!!グレタっ!!子どもは大人の事情に首突っ込まないのーっ!!》
その部屋にいたものは青ざめながら恐る恐るグウェンダルのほうを振り向いた。
本当は逃げ出したいくらいだったのだが‥‥。
《あれ?なんか普通?眉間の皺はあるけど‥‥。》
《おかしいな‥‥兄上はもうアニシナのことはいいのかな?》
《弟のために身を引いたということなのでしょうか‥‥ああ‥‥なんと麗しき兄弟愛‥‥。》
ユーリたちにそのように好き勝手に言われているのを知ってか知らずか‥‥。
「そうか‥‥。」
と一言いうとおもむろに扉の方に歩き出した。