novel
□伝えようとした
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伝えようとした。
けれど、
僕たちは不器用だから。
互いを傷つけ合うことしかできないんだ。
「アッシュ!」
雪の降るケテルブルクの夜、ルークの声が響いた。
紅い後ろ姿に叫ぶ。
すると、アッシュはぴたりと足を止めた。
「・・・レプリカ」
明らかに機嫌が悪そうに返事をするが、ルークはアッシュが止まってくれたことが余程嬉しかったのか、全く気にしていない様子だ。
チッと舌打ちし、ルークを見る。
ザクザクと雪を踏みならし、走って来る片割れ。
嬉しそうに笑いながら近づいてくる。
「アッシュ!」
「何か用か、屑」
「うん! あのな、・・・」
ルークは楽しそうに話し始めた。
いろいろ話したい事があったのだろう。話の終わりが見えてこない。
はぁ、とため息をつくと、息が白くなっていた。
そういえば、少し肌寒い気が・・・
「・・・っ、くしゅん!」
「・・・てめぇは馬鹿か」
やれやれと首を振る。
ルークは雪が降っているというのに、暖かい格好をしていない。
あのいつもの腹が出ている服のままだった。
見ているこっちが寒くなると言ってやったが、首を傾げて笑うばかり。
駄目だ。レプリカってもんは脳ミソまで劣化してやがるのか?
あの時と同じだ。まぁ、今はあの時とは色々と違っている。
まぁ、それは置いといて。
「来い。レプリカ」
「アッシュ?」
ルークを半ば引きずるように宿に連れていく。
「あの、アッシュ? 俺、もう宿とってあるんだけど…」
「あ? 関係ねぇな」
「……」
聞けよ! と騒いでいるルークには目もくれず、さっさと歩きだした。
「なぁ、アッシュ。」
「何だ」
「あのさ、アッシュは・・・」
宿に着くと、ルークはぽつりと呟いた。
その呟きに、アッシュは微かに眉根を寄せた。
『アッシュは・・・、俺が死んだら、泣いてくれる?』
俯いたままルークは動かない。
いきなり何を言い出すんだとアッシュは小さくため息をこぼすと、ルークを見て言った。
「あぁ、きっとな」
適当に言葉を濁した。
泣かないかもしれないし、泣けないかもしれない。
泣いているところを見られたくないのかもしれない。
ルークを不安にさせてしまうから。
ルークは、アッシュの答えを聞いた後、嬉しそうににこっと笑った。
「ありがと、アッシュ」
「ふん」
少しそっけなく返しても、ルークは笑っていた。