novel
□I love.
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「あっ、ルーク様ぁ」
「ん、どうした? アニス」
気分転換に、と甲板に出るとアニスが手を振っていた。その子供っぽい明るい笑顔に惹かれ、彼女の隣に立った。すると、アニスはにぱっと更に愛らしい笑顔を見せてくれた。
可愛らしい。アニスを表すのに最も適した言葉だと思う。
「あのぉ…ルーク様っていつも、その、ティアさんと一緒にいますけど……どういう関係なんですか?」
アニスは僅かに頬を桃色に染め、上目遣いで訊ねてくる。
あぁ、なんて可愛いんだろう。
「んー。まぁ、好みのタイプかな」
「そうですかぁ……えへへ、ちょっと残念」
ティアはクールで大人っぽくて、好みだ。黙っていればかなりの美人だとも思う。
「あぁ、でもアニスも好みだな」
「! ほんとですかっ!?」
「すごく可愛いと思う」
アニスはティアとは違う魅力を持っていて、惹かれるところがある。
例えば、その花のような笑顔だとか、親思いで料理が上手いところだとか。何より小さくて、女の子らしくて、見てるだけで癒される。
でも、嫌いなところもあるんだ。
「きゃわーん、ルーク様にかわいいって言われちゃったよぅ」
「……黙ってれば、な」
「…え……?」
そのキンキンした煩わしい声だとか、「俺」じゃなくて「俺の後ろの金」のことを狙っているところだとか。黙ってればかわいいのに。
「ぁ……っは、ルーク…さま…?」
「かわいいよ、アニス」
「い、たい……痛いよ、イオン…さ…ま……」
うるさいから、思わず刺してしまった。だけど、静かな方が好みなんだから、仕方ないだろ?
アニスはがっくりと膝をついて、それからその場に崩れ落ちた。ドクドクと赤い血が床に広がっていく。うっすらと開いていた目は完全に閉じて、眠っているように見えた。
「可愛いな、アニスは」
すっかり眠ってしまったアニスの髪を一撫でし
て、肩に担ぐ。
部屋に連れて行ってあげないと可哀想だろ?
冷たい床で寝かせておくほど、酷いやつじゃないんだ。
◇ ◇ ◇
誰にも会わずに部屋まで来れた。
誰かに会えば、必ず何か言われるから、うざくてたまらないんだよな。
「また殺したのか?」
アニスをベッドに寝かせたとき、背後から声がして振り向いた。声の主は、ガイだった。
「あ? 殺してねぇよ。寝かせたの」
「そうかいそうかい。で、今回はアニスか」
「あぁ。可愛いだろ? アニスの寝顔」
「ははっ、まぁな」
眠っているアニスの、うっすらと開いている薄い唇にキスをする。ピンク色の唇は、少し冷たくなっていた。やわらかくて、ふわりと甘い、花のような香りがした。
「おいおい、襲っちまうのか?」
「んなわけねーだろ! つーか、キレイにすんの手伝えよな」
「はいはい」
ガイの冗談を受け流し、手伝えと命令する。するとガイは渋々、といった様子もなくベッドまで歩いてきた。
アニスの赤く染まってしまった団服を脱がせると、肌は健康的な色をしていてキレイだった。いかにも穢れを知らない少女といったかんじだ。
「お前はいくつでもイケるんだな」
「別に幼女が好きとか、そんなんじゃねーよ。ジェイドでもあるまいし」
「まぁ、アニスは可愛いからな」
「だろ? ま、黙ってればの話だけど」
「ハハハ、違いない」
『楽しく』ガイと会話をしながら、アニスの血で濡れた左胸をタオルで拭う。血は相変わらず流れ続けていたが、次第に量が減っていき、やがて止まった。タオル越しに耳を当て、心音を聞こうと試みるが、音など一切聞こえてこなかった。
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