novel

□dark side
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「〜〜〜っ、いってぇ・・・」

どしんと尻から着地した。

鈍い痛みが駆け上がってくる。

辺りを見回すと、どこもかしこも白かった。

床も、壁も白い。

「フン、・・・どうやらファブレ家の遺伝子ってのはよほど間抜けらしいな」

「アッシュ! どうしてここに・・・?」

どうやら、真っ白な世界ではなかったらしい。

扉の前に、真紅が存在していた。

立ち上がり、アッシュに駆け寄ろうとしたとき

「ルーク!」

上から声が降ってきた。

続いて、タン、という軽い音が後ろから聞えた。

「・・・ガイ!?」

「怪我はないか?」

穴に落ちた俺を、ガイが追いかけてきてくれたらしい。

「うん、それよりみんなは?」

「・・・あぁ、先に行ったよ」

「そっか・・・」

俺がこんな罠にかからなければ、ガイにも、みんなにも迷惑をかけずに済んだのに・・・

「ガイ・・・ごめん」

「おい」

「・・・・アッシュか」

聞えるか聞えないかという程小さな声は、アッシュの声にかき消されてしまった。

そんなアッシュのことを、ガイは忌々しそうに睨みつけている。

「久しぶりだな、ガイ?」

「どうしてお前がここにいる」

「どうして、だと? そこの屑がいい例だ。・・・認めたくないが、劣化レプリカと同じ罠にっかかったんだよ」

「・・・なるほどな」

いつの間にか、ガイが抜刀体勢になっている。

対してアッシュは、両手を上げ、肩を竦めて笑っている。

「まぁそう早まるな」

「動いたら殺すぞ」

「・・・随分物騒なこと言うじゃねえか。元主人に向かって」

相当おかしいのか、肩を揺らし、声を上げて笑っている。

あっちから攻撃を仕掛けてくる様子はなかった。

「お前なんか主人じゃない」

「ガイ・・・剣、離せよ・・」

「油断はできないだろう」

「そうだけど・・・」

ガイは体勢を崩さず、じっとアッシュを睨み続けている。

その瞳は暗く淀んだ色を湛えていて、アッシュに送られる視線は、酷く冷たいものだった。

怖いと思った。

昔、何度かこの目を向けられた記憶がある。

当時はよくわからなかったが、今となって見ると、とても恐ろしい目をしていると思う。

「な・・なぁ、アッシュ! ここから出る方法はないのか?」

2人とも無言で睨み合っていて、このままだと戦闘が始まるのではと思い、話題を提示した。

「ないこともないな」

アッシュはそう答えると、俺とガイの横を通り、部屋の真ん中で立ち止まった。

膝を着き、手を床に着ける。

すると、青白い光が床の線に沿って移動を始めた。

光はアッシュのいた扉の真ん中を駆け上がり、天井に消えていった。

とても重い音が部屋中に響く。

扉がゆっくりと開き始める。

完全に開放されたとき、アッシュが床から手を離し、立ち上がった。

すると、同時に扉も閉まり始め、あっという間に閉じてしまった。

「誰か1人が残らないといけないってわけだ」

「それじゃあ、俺はレプリカだし・・・剣が互角だとしても、それ以外のとこで有利なお前が行くべきだ!」

「・・・お前、俺をなめてんのか?」

俺はアッシュの言うとおり、劣化したレプリカだから、オリジナルであるアッシュがローレライの鍵を完成させるべきだと思った。

しかし、アッシュはそうは考えていなかったようで。

「どっちが有利かなんざわからねぇだろうが!」

「そうだぞ、ルーク。お前が脱出しないと意味がない。・・・だろ?」

「・・・ガイ」

確かに、どっちが有利かなんてわからないかもしれない。

ここから脱出して、みんなと合流しなければならない。

だけど・・・

「じゃあ、誰が残るっていうんだよ・・・」

「勝負するか? 負けた奴が残る。それでいいか」

「おいおい、いいのか? お前は1人なんだぜ?」

ガイがアッシュを挑発するような発言をする。

戦闘になれば、アッシュ対俺とガイ、となるのはわかっていた。

でも、俺はできれば3人全員で脱出したい。

「上等だ。・・・お前らまとめてぶっ殺してやるよ!!」

「はっ、威勢がいいな!」

だけど、それが不可能だということはわかっていた。

アッシュは本気で俺たちを殺そうとしているし、ガイにとってアッシュは親の仇であるファブレの息子。

復讐、しようとしているのかもしれない。

「・・クソッ、よくかわしたな!」

「あんなの余裕ですよ、"ルークお坊ちゃま"」

「!! ・・・てめぇ、ぜってぇ殺す!」

俺は戦いに混ざれないでいた。

アッシュとは戦いたくなかった。

2人にも、今すぐやめてほしかった。

「フン、ガラ空きなんだよっ!」

「ルーク! 避けろ!!」

「あっ・・・」

いつの間にかアッシュの剣は俺に向いていて、今まさに攻撃を繰り出されたところだった。

急なことに体が反応できず、完全に避けることはできなかった。

が、剣を抜くことはできたようで、アッシュの斬撃を受け止めていた。

「チッ・・・よく反応できたな」

「アッシュ! もうやめよう、争っても仕方な・・・・い・・・?」

ぐいぐいと押してきていた剣が、急に軽くなった。

「アッシュ・・?」

反応がなくなったアッシュに異変を感じ、剣を退けて呼びかけてみた。

すると・・

「・・・ッ!!」

ぐらりとアッシュの体が傾き、崩れ落ちた。

バタンという音がした方を見ると、

「ひっ・・・あ・・・アッシュ・・・?」

「見るな、ルーク」

目の前が真っ白になりかけた。

さっきまで声を張り上げていたアッシュの首が、体から離れていたのだ。

ゴロリと床に転がっている。

切断された首からは、ドクドクと大量の血が流れ出ている。

「あ・・・ガイ・・・・・」

「さぁ、行こうか。みんなが待ってる」

ガイは首のない死体など見慣れているとでもいうかのように、平然を体を引き摺って中央まで行った。

手を着かせ、扉を開く。

ガイは、俺を立たせると扉まで走れと言った。

無表情なガイに恐怖を感じ、言われたとおりにした。

すると、何を思ったのか、ガイが剣を一振りした。

そして、こちらに向かって歩いてくる。

「さ、行こうぜ」

俺の肩を押し、部屋の外に出る。

振り返ってみると、さっき斬られたのだろうか。

アッシュの肘から手にかけて、一直線に線が入り、真っ二つに分かれた。

どちらも外側に倒れ、手が床から離れた。

扉が勢いよく閉まった。

「行こう」

「・・・・うん」








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