novel

□蝶
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ひらり、ひらりと黒い蝶が目の前を飛んでいった。

多分、行く当てなど無いのだろう。

ただ、ひらりひらりと飛んでいく。

多分、花の蜜を求めているわけではないのだろう。

ただ、ふらふらと飛んでいる。

蝶の行く先を目で追ってみると、そこには美しい罠が。

朝露に濡れて、きらきらと輝いている。

行く当ての無い蝶は、その美しい輝きに誘われて、ひらりひらりと飛んでいく。

「あ…」

不意に、蝶の動きが止まった。

罠にかかってしまったようだ。

美しい輝きに騙され、騙されたまま。

黒い蝶は、罠から逃れようと必死に羽ばたく。

けれども、羽ばたけば羽ばたくほど深く罠にはまってしまって。

その内、羽ばたくことすら出来なくなってしまって。

黒い蝶には逃げ場が無くなった。

後は、罠を仕掛けた主に死ぬまで愛されるだけだ。

…結局、それは幸せだったのか不幸だったのか。

もし自分があの蝶だったら。

もし貴方があの蜘蛛だったなら。

「俺は…」

幸せだろう。

行く当ての無い蝶は、愛しいヒトの甘い罠にかかる。

そして、死ぬまで愛される。

即ち、罠にかかることは、自分が死ぬまで愛して貰えるということ。

自分を、自分だけを見ていてくれるということ。

それは、この上ない至福であるということ。

幸せでないわけがない。


それとも。


自分があの蜘蛛で、貴方があの蝶だったなら。

帰って来てくれるだろうか。

迎えに来てくれるだろうか。


「アッシュ…」


お前なら、おれの罠にかかってくれる?

それとも、おれに会いに来てくれる?


「あいたいよ…」


会いたいよ、

迎えに来て…?







 蝶
(今どこにいるの…?)

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