novel

□トリックオア
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「トリックオアトリート」

びしっと手を突き付けられ、思わず固まってしまった。

その手の持ち主は、見なくてもわかる。

我が主である、ルークだ。

「トリックオアトリート」

何度も繰り返し言い、催促してくる。

「ルーク、悪いが今手元に無いんだ」

「ちぇー」

手元にお菓子が無いことを伝えると、ルークはがっかりとした様子で手を下ろした。

その手を頭の後ろに回し、両手を組んでくるりと踵を返す。

そして、そのまま歩いて行ってしまった。

「ルーク! あとでやるから機嫌直してくれよ」

「別に怒ってねーし」

ルークは数歩歩いた後、ふと立ち止まって、あ、と言った。

そして、振り返るとこちらに向かって歩いてきた。

「ルーク?」

俺の前でぴたりと止まると、肩に両手を置いて爪先立ちになった。

ぷるぷると震える脚が愛らしい。

「菓子くれないから、悪戯する」

「え・・」

え、と口を開いた瞬間、息ができなくなった。

そして、ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「・・・ちゃんと菓子持ってろよな」

すぐに呼吸ができるようになり、甘い香りも消えていった。

走っていくルークの後姿が視界に入る。

何もかも離れて消えていってしまった。

「・・・ルークのやつ」

やられた。

ふっと笑って己の唇に触れる。



1人になった俺には、甘く、温かい感覚だけが残されていた。








トリックオアトリート
(お菓子くれないなら悪戯します。)

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