novel

□感謝してる
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「…んっ…ぅ…」

ガタンガタンと音を立てて進む電車。中では無理に押し込められた人々が、迷惑そうに隣を見遣りながら足元を気にしている。

目的地は、まだまだ先だ。

「っ、ふぅっ……ん」

ぐいぐいと喉の奥に押し付けられる熱にえずきながらも、ひたすら歯を立てないように意識していた。くぐもったその声は、電車の騒音に掻き消され、周囲の人に聞こえることはない。

しかし、この行為を誰にも悟られていないとは言い切れなかった。もしかしたら、気付いた人が自分を見て笑っているんだ…そう考えると、羞恥で顔が熱くなる。そんな考えから逃れたくて、ぎゅっときつく目を瞑った。

視界に何も入らなくなり、感じるものは口の中の熱と彼の熱い吐息だけになった。

それはそれで恥ずかしかったりするのだが、それでも周囲に気を配る必要がなくなり、気持ちが少し楽になった。

相変わらず喉に押し付けられるソレは限界が近いのか、ダラダラと先走りを垂れ流している。青臭さと共に、苦味が口内に広がる。それにはもう大分慣れてしまったが…やはり眉間に皺が寄ってしまう。

「…っ、ルーク…そろそろッ」

「ん…」

上から降ってきた声に目を開くと、辛そうに眉をひそめ、ほんのりと頬を染めた彼が居た。はぁはぁと熱い呼吸を繰り返している。

自分の口に、舌に、手に、指に…感じてくれている。

とても嬉しかった。こんな自分にもできることはあるんだと、思わせられる瞬間だった。

いつも与えられてばかりいる自分が、唯一与えることができるもの…。…快楽……それはセックスであったり、こんな形であったりする。何の取柄もない自分には、体しかないのだ。

だから、こうして。

「くっ…、出る…ッ!」

彼の射精を促すように、強く先端を吸った。すると、彼はビクリと震え、欲を吐き出した。

熱く、とても濃い精液が大量に流れ込んで来た。溜まっていたのだろうか…、口から溢れそうになる。

それを飲み込むのは躊躇われたが、吐き出すこともできず、ゴクリと一気に飲み下した。喉に違和感が残る。

彼の萎えてしまったモノを清めるように舐め、そして放すと、彼は満足そうに笑って髪を優しく梳いてくれた。髪は彼の手から逃れるように、さらさらと指の間から流れ落ちていく。

自分の朱く、先にかけれ色素の抜けていっているこの髪を、彼は一言「きれいだ」と言った。

そして、続けてこう言った。



「俺たちみたいだ」



と。





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