01お茶を持ってきて
「・・・・お茶」
ぽつりと呟いたその声は、果たして彼に届いたのか。
ざわざわと風に揺られ、紅く色付き始めた木の葉が歌う。
小さな呟きなど、掻き消してしまいそうな。
「かしこまりました。少々お待ちください、お嬢様?」
毛先にいくほど色素が薄くなっている朱い珍しい髪の人は、むっとして彼を睨んだ。
「お嬢様じゃねーっつーの」
「おや、これは失礼しました。お坊ちゃま」
嫌味たらしく彼は言った。
すると、朱い人は長い髪を揺らし、勢いよく立ち上がった。
「その呼び方はやめろって言っただろ!」
「・・・怒られてしまいました」
はははとおどけたように笑いながら、踵を返す彼。
朱い人は、それを黙って目で追っていた。
「・・・さっさと持ってこいよ!」
「はいはい」
ゆっくりと歩く彼に苛立ち、つい声を荒げてしまう朱い人。
ちらりと横目で見てみると、むすっと不機嫌そうな顔をしていた。
「まったく、可愛い人ですねえ・・」
その呟きは、未だ歌い続けている木の葉に掻き消されてしまった。
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