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□夢小説1
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書類の打ち込みを終えてぐっと背筋を伸ばしそのまま背もたれに倒れこむ。
なんとか明日までの分は仕上げた。
今日は人権の講習会なんてものに参加させられたので、どうしても終えなくてはいけない書類の整理が残ってしまったのだ。明日には外部のスタッフがはいって資料の装備点検がはじまる。こちらの不備で仕事が進まないようでは話にならない。
だからって今日じゃなくてもなぁ。
人権講習会で渡された冊子を横目に見てため息をつく。
不意に聞きなれたエキゾースト音が窓ガラスを揺らした。顔をあげて窓からその特徴的なテールライトを見て思わず頬が緩む。闇色のボディは夜に紛れてはっきりとは見えないが、何度も聞いているRBエンジンの心地いいアイドリング音はまがうことなき彼の愛車だ。
時計を見てもうこんな時間かと、網戸を開けて、運転席から降り立つ人影に声をかけた。
「毅、ごめん!まだもうちょっとかかりそう」
返事をする代わりに手をあげて、それから車にもたれかかって煙草に火をつける。
彼はこうしていつも、私を迎えに来て待っていてくれる。仕事が終われば私をナビシートに乗せて妙義の山へ向かう、それが日常になっていた。
多分、私を妙義へは連れて行きたくは無いのだろう。本当はどういった考えで彼が何を心配しているのかは分からないけれど、私を想ってのことだということは分かる。これは自惚れなんかじゃなくて、優しい彼に対する信頼だった。
もちろん、必然的にバトルの日は私はお留守番だ。本人曰く、「集中できねぇから」だけどチームのメンバーにもらした話では「怪我させたくない」から全力が出せないらしい。現にバトルでは何度も事故をおこしている。
それでも、こうしてちゃんと迎えに来て、妙義を上るのは彼の性格が律儀だからかもしれない。
書類を手早く片付けて、鞄を手に取ると部屋から飛び出すようにR32に向かって走る。
ちょっぴり間抜けな姿を見られて、私は恥ずかしさよりも彼を待たせることが嫌だった。
目が合うとちょっと驚いて、苦笑しながら煙草の火を消した。
「もういいのか?」
「うん、いいのいいの。行こう」
私がいたずらっ子のようにニヤリとしながら助手席のドアを開けると、彼は困った顔だ。それでも黙って乗せてくれるのだから、
「律儀というか、なんというか」
「ん、なんか言ったか?」
ステアリングを握りながら、彼は顔を前に向けたまま言う。
「いや、なんでもないの」
こうしてナビシートて貴方の真剣な横顔を見ているだけで、私は十分だったりする。だけど本人には恥ずかしくてそんなことは言えない・・・この淡い憧れににた恋心も。
私の言葉に気分を害したのか、少しムッとした彼の口はへのじだ。きっちりした所がある彼はこうして話の途中で誤魔化されることを嫌う。
それは美徳かもしれないけれど、時としてはめんどくさかったりする。
「えっとね、無理言って乗せてもらってるの分かってるんだけど・・・」
言葉が見つからない。なんて言えばいいんだろう。彼はいつも私の言葉を静かに待っていてくれるが、きょうは違った。
「ああ、他のやつだったらぜってぇ、のせないからな」
「いや、私もこれ以上我儘言わないよ!ただ、どうしてちゃんと迎えに来てくれるのかなって」
遠回しな言い方に、彼は眉ねを寄せた。
「それ、俺に言わせる気か?」
「あー、なんつうか・・・##NAME1##の顔が見たい、ていうか」
にやけてしまう顔をみられまいと、窓の外を見ているふりをする。私はただ、真夜中の闇に隠されてしまったあなたの心を確かめたいの。雲に隠れた薄い月が、顔を覗かせていた。
fin